サイゾーウーマンカルチャー社会「慰安婦」問題の本質とはなにか? カルチャー 【特集】「慰安婦」問題を考える第1回 今さら聞けない「慰安婦」問題の基本を研究者に聞く――なぜ何度も「謝罪」しているのに火種となるのか 2019/08/07 19:45 小島かほり 社会 日韓対立の根本にある、性暴力への認識の差 ――「慰安婦」の存在自体は戦中~戦後に知られていましたが、大きく動いたのは、1991年に韓国で金学順さんが実名で名乗り出たことがきっかけです。日本でも支援グループがいくつも結成され、「慰安婦」問題を解決しようという機運が、今よりもずっと高まっていました。 林氏 それまでは誰が被害者なのかわからなかったために、償うという発想自体なかった。彼女たちが名乗り出たことで、謝罪し賠償するべきだという意識に変わりました。いま振り返ってみると、90年代は、日本人は「社会はもっと良くなるし、自分たちの手で良くしていける。きちんと償いをして、あの不幸な過去を乗り越えていけるはずだ」という希望や自信があった。自国の悪事を認めるのは、自信がないとできない行為です。 同時に、国際社会自体が90年代に大きく変わりました。冷戦構造が終わって、さまざまな国家犯罪が明るみに出ることで、国家による人権蹂躙や暴力を償わなければならないという考え方が一気に浮上してきた。戦時性暴力に対しても、問題が長らく放置されることで人権侵害が継続することがクローズアップされました。ボスニア・ ヘルツェゴビナ紛争に関する戦争犯罪を裁く旧ユーゴスラビア国際戦犯法廷(※6)を契機に、これまで国際社会が戦時性暴力を取り上げてこなかったという反省が生まれた。戦時性暴力をあいまいにしてきた歴史をさかのぼると、日本軍「慰安婦」制度に直面するわけです。 また冷戦終結と同時に、世界中に人身売買が広がりました。「慰安婦」問題は、先にも述べたように暴力的な拉致だけじゃなく、人身売買がすごく大きなウェイトを占めていた。国家による組織的な人身売買問題として、戦時性暴力とは別の側面で「慰安婦」問題が注目されるようになりました。国際社会としては、平和国家となった日本は、それらの問題に対してひとつの模範を示せるのではという期待があったのです。しかし、日本は人身売買に関しては「強制連行はなかった」とはねつけ、戦時性暴力に対しても人身売買に対しても、きちんとした対応が取れなかった。 ――元「慰安婦」のほとんどが高齢となり、すでに亡くなっている方も少なくありません。彼女たちの名誉回復のためにも解決は急務ですが、賠償金を含め、戦争を知らぬ世代が戦争責任を負わされることや、何度も謝罪・賠償させられるのではという疑念が、右傾化や「慰安婦」問題への無関心につながっているように思えます。戦争を知らぬ世代は、この問題とどう向き合えばいいのでしょうか? 林氏 まず賠償についてですが、安倍内閣がアメリカから1機100億円以上もする戦闘機を100機以上購入する予定ですが、日韓合意で日本が支払った額は、その1機の1/10ですよ。それほどの高額ではありません。そもそも日本という国家が継続している以上、その恩恵を受けているなら、過去にやった行為について被害者に償うのは当然のことでしょう。日本という国の構成員としての責任があります。また、日本では女性の人権を踏みにじるような社会のあり方が今も続いていて、過去から何も学んでいない。それを変えるためにも、「慰安婦」問題に向き合い、解決しなければならない。 韓国では、♯MeToo運動の盛り上がりと連動して、「慰安婦」問題に関心を寄せる若い世代が増えています。韓国も他国同様に、性暴力事件については被害者の方が辱められるような社会で、元「慰安婦」の人が50年もの間、名乗り出られなかった。♯MeToo運動を通じて、そういった社会を変えよう、性暴力は被害者が恥ずべきことではないという理解が広まり、「慰安婦」問題と若い世代を結びつけている。もちろん韓国にも理解に乏しい人はいますが、少なくとも文在寅政権を支えている人たちは、過去の認識を転換しようとしている。それを見ると、現在の「慰安婦」問題における日韓の対立関係の原因は、性暴力に対する認識の差だと思います。ナショナリズムの争いではなく、一人ひとりの人権侵害の問題として捉えるべきでしょう。 また個人としては、この問題に関しては日本の男性がもっと怒るべきだと思っています。慰安所の前に日本軍兵士がズラーッと並んでいる有名な写真があるでしょう。数分ごとに男たちがどんどん入っていく。つまり男の兵士たちも、まともな人間として扱われていない。「慰安婦」問題において女性たちが深刻な被害を受けた問題であることは言うまでもないことなのですが、男の人間性も踏みにじられている問題でもある。私自身は、男性がもっとこの問題に気がつくべきだと思っています。 第2回では、軽視された男性の人権と、「男性性」を利用した日本軍による兵士の性的コントロール、「慰安婦」問題における軍と兵士の共存関係について、女性史・ジェンダー研究家の平井和子氏に解説してもらう。 【特集】「慰安婦」問題を考える第2回 なぜ兵士は慰安所に並んだのか、なぜ男性は「慰安婦」問題に過剰反応をするのか――戦前から現代まで男性を縛る“有害な男らしさ” ※6 ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争では各部族が「民族浄化」として、敵対する部族の女性を強制収容所に入れ、組織的な強姦を行い、妊娠・出産させた。特にセルビア人によるボシュニャク人女性への性暴力は深刻で、「見えない子ども」と呼ばれるレイプによって生まれた子どもたちは、2万人とも目されている。 (取材・文=小島かほり) 前のページ1234 最終更新:2019/08/09 20:24 関連記事 『表現の不自由展・その後』中止問題、脅迫した人物はどんな罪に問われる? 弁護士に聞く遺族は“顔写真の入手”に傷ついている――被害者支援の弁護士が語る「マスコミの問題点」オンナたちの釜ヶ崎――圧倒的「男性社会」で生きてきた「私娼」「女性ホームレス」の姿 【ジャニーズ情報専用】Twitterアカウント「J担しぃちゃん」オープン! 楽天 日本軍「慰安婦」問題の核心 徴用工問題も日韓の「人権意識」の差 次の記事 子宮委員長はる、引退後の今 >