『新宿二丁目』著者・伏見憲明氏インタビュー

「新宿二丁目」伏見憲明氏が語る実態――世間的な「勝ち札」が通用しない“多様性の街”

2019/07/27 19:00
末吉陽子

“行き場のない何か”を抱えている人が多い

――なるほど。ちなみに、2018年の東京レインボープライドでは、浜崎あゆみさんが新宿二丁目への思いを語って話題になりました。伏見さんもゲイバーを経営されていますが、女性一人で来店するお客さんも少なくないですよね。

伏見 ゲイバーといえば、かつては男性同性愛者が恋愛やセックスの相手を見つける場所でしたけど、いまや恋愛もセックスもマッチングアプリで調達できる時代ですからね。なので、男性同性愛者がゲイバーを訪れる動機も変わってきている気がします。バーもゲイ相手の商売だけでは、なかなか店が回らない。そうした変化を受けて、女性も足を踏み入れやすくはなっていますよね。

――ヘテロセクシュアルの女性は、もちろん恋愛やセックス目当てではないわけで、そうなると何を求めて足を運んでいるのでしょうか?

伏見 強いて言えば、“行き場のない何か”を抱えている人が多いような気がします。“オンナ”というジェンダーに違和感を持っていたり、オンナとしての商品性を競い合ったりするのに疲れているように見えます。だから女同士でいるよりも、ゲイが中心の空間のほうがリラックスできるのかも。ゲイバーは、たとえ女性が裸になったとしても「あ、服着てもらえますか? っていうか勘弁してください」と言われるような場所ですからね(笑)。性的に見られないことによる心地よさを求めているのかもしれません。

――ゲイバーは、ジェンダーに起因する疲れが生じない空間ということですか?


伏見 そう思います。というか、女同士って人間関係が大変じゃないですか。油断できないところがあるでしょ? じゃあ、対男性でいいかっていうと、それはそれで性的な記号としてのオンナ性を意識せざるを得ない場面も多い。いろいろ消去していった結果、ゲイが多い空間が一番楽じゃない?って(笑)。女性からすると「所詮オカマだろ?」だし、ゲイも「所詮オンナだろ?」って、お互いそこそこ馬鹿にし合っているがゆえの、均衡が保たれている気がしますね(笑)。差別ゆえの対等。

――絶妙なあんばいの人間関係ですね。

伏見 人間関係で一番難しいのは、実は“対等な関係”だと思うんです。上下関係やジェンダー規範に沿って行動しているほうが、案外楽なんですよね。それに比べて、対等性を維持することって思いのほか大変。女同士だと対等でいることに神経質にならざるを得ないし、対男性ならジェンダー的な気配りも求められる。だから、ある意味、“どうでもいい関係”が楽なんですよ。ゲイバーに来店した女性にとって、隣に座っているゲイは、どうでもいい関係でいられる相手。ゲイという記号性を媒介にすることで、難しい人間関係から解放されて楽になれる女性が多いのかなと思います。ただ、どうでもいいから、雑なコミュニケーションでOKっていうわけにもいかないところが難しいけど(笑)。

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