元職員が語る「児童相談所」バッシング――目黒虐待死の事実は重い、それでも知ってもらいたいコト
3月、東京都目黒区にあるアパートの一室で、船戸結愛ちゃん(当時5歳)が父親からの暴行により死亡していたことが発覚しました。今月6日に、父親が傷害罪および保護責任者遺棄致死容疑で逮捕、さらに母親も逮捕されています。
児童虐待防止全国ネットワークの発表によると、虐待による死亡例は年間50件を超えるのだとか。未来ある子どもの命が週に1人失われていると思うと、このような痛ましい事件は1日でも早くなくさなければならないことは間違いありません。
しかし、虐待による子どもの死が報じられるのと同時に子どもを守る側である“児童相談所”を叩く意見も世間から聞こえてきます。ネット上では「児童相談所の職員も罰するべきだ!」との過激な発言もあり、元職員である筆者としては複雑な思いです。今回、元職員という立場から、児童相談所の実情、そこで働く職員の思い、そして“救えなかった命”ばかりが報じられる裏側で、どのように職員が保護者と子どもと向き合っているのかをつづってみたいと思います。
保護者から「成績伸びない」という相談も
児童相談所がメディアからたびたび叩かれるのは、世間に対して閉ざされた空間だと思われているためでしょう。保護者の中には「児童相談所って子どもを連れ去るところでしょ」と、そもそもあまりいいイメージを持たれていない方もいると思います。
しかし、児童相談所の主な業務は“相談”と“対処”の2つ。特に、保護者や子ども、その関係者からの“相談業務”に主軸をおいている組織なのです。相談内容も事件性のある虐待から、誰しも経験する育児や教育に関する不安など、多岐に渡ります。
筆者が職員だった頃は、保護者から「子どもとの接し方がわからない」「成績が思うように伸びない」のようなちょっとした相談から「つい手が出てしまう」「カッとなって暴言を吐いてしまう」など、虐待との境界が難しい悩みをいくつも聞いてきました。
一方で、もちろん、児童相談所では“対処業務”として、虐待を受けている子どもを保護したり、実際に保護者に対して指導などもします。ただし、子どもを保護するにしてもあくまで一時的なもの。1~2週間から数カ月、次の進路が決まるまでの間のみとなります。
ここで1つ、元職員として伝えておきたいのは、児童相談所は基本的に“子どもだけでなく保護者の味方でもありたい”と思っていること。保護するにせよ、まずは子どもと保護者との関係修復を第一に、難しいときにほかの選択肢を模索していくという考え方なのです。