インタビュー

紀州のドン・ファン怪死事件――資産家の高齢男性は「若い女」「結婚」に何を求めるのか?

2018/06/16 17:00

「腹上死した」と思った

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紀州のドン・ファン 野望篇 私が「生涯現役」でいられる理由』(講談社)

 「まだ事件性があるかどうかもわかっていない段階で、『亡くなった』という第一報を知ったとき、ふと『ドン・ファンは腹上死した』と思った」と語るのは、老年学研究者の島影氏。野崎氏の自伝『紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男』(講談社)に、ホステスを口説き損ねた晩、ホテルで脳梗塞を発症し、三途の川を渡りかけたものの九死に一生を得たというエピソードがつづられているのだが、そこで“もしホステスをお持ち帰りしていたら腹上死していたかも”“そういう最期も悪くない”と野崎氏は語っていたのである。

「なので最初は『あぁ本望を遂げたんだ』と思ったんですが、その後、遺体から覚せい剤が検出されたと報じられ、『まさかそんな展開になるとは』と驚きましたね。ドン・ファンは、著書を読む限り、かなりぶっ飛んでいる人物。若い女性をナンパするためには手段を選ばず、惜しみなく金を使い、道化にもなれる。そこまで徹底されると、年齢差を超えて口説かれる女性がいるのは不思議ではないかなと思います。ただ、あまりにも極端な人物像のため、同年代の高齢男性と比較して……という見方をするは難しそうですが」

 確かに野崎氏は、一般的には考えられないようなナンパ術を著書で披露している。好みの女子大生に「ハッピー・オーラ、ハッピー・エレガント、ハッピー・ナイスボディ。あなたとデートしたい、エッチしたい……」と語りかけるなど、「ドン・ファンは女性に対して、どこまでも図々しいんですよね。目先のプライドにとらわれず、捨て身で口説ける男性は年齢問わず、恋愛市場で捕食者になれる。特にモテ要素がなくても一定のニーズがある上に、ドン・ファンの場合は潤沢な資金力もあったと考えるとかなり強い。ただ、そうは言っても、本に書かれている内容が全て本当かはわかりません。報道では、ドン・ファンが女性にお金を出し渋っていたという内容のものもありましたしね。そこはなんとも言えませんが、本人名義で発信していた“紀州のドン・ファン”のキャラ設定は、かなり異色の存在だったといえるでしょう」。

 そんな枠にはまらない男である野崎氏だが、老年学の見地から、気になる点もあるという。

「年を取ってから若い女性に貢いだり、周囲から見て『バカだなぁ』と思うような恋愛にハマッて身包みを剥ぎ取られてしまうというケースがあります。これは、年を取ると、情動的な満足の方を重視するようになるという、“社会情動的選択性理論”に基づく行動だと考えられます。若い頃は、たとえ嫌な相手でも『メリットがあるから関わっておこう』と考えたとしても、年を取って人生の残り時間が短くなると、そんな気が起きなくなる。『自分にとって楽しいことを優先しよう』と考えるようになると言われます。ドン・ファンの著書を読むと、彼は若い頃から若い女性を追いかけていたようなので、なんとも言いにくいところがありますが、年を取っても若い女性に執着していたのは、社会情動的選択性理論で説明できるところがあるのかもしれない……といったところでしょうか」


 島影氏は、著書の中から、コンドームの訪問販売業をしていた若かりし頃の野崎氏が、顧客である女性を相手にセックスして売り上げを伸ばしたという箇所を指摘し、「ドン・ファンが、お金のためにやりたくないことをやっているのって、本の中ではここぐらいなんですよね。もともと、恋愛に限らず情動的な性格で、それが年を重ねてより強くなったというのは、あるかもしれません」。

紀州のドン・ファン 美女4000人に30億円を貢いだ男 (講談社+α文庫)