知られざる女子刑務所ライフ25

元女囚が見たムショという“妄想”空間ーー「BL本」の差し入れで夫を疑い、夜も眠れず

2017/11/19 16:00
nakanorumi25
Photo by tephanie Ezcurra from Flickr

 覚醒剤の使用や密売などで逮捕起訴され、通算12年を塀の中で過ごした後、その経験を基にさまざまな活動を続ける中野瑠美さんが、女子刑務所の実態を語る「知られざる女子刑務所ライフ」シリーズ。

■些細なことで不安になるのが「懲役の宿命」

 先日、「週刊大衆」(双葉社)で、元AV女優の麻美ゆまさんのインタビューを受けさせていただきました。関西人はサービス精神が旺盛なので、面白おかしく、しゃべってしまいました(笑)。刑務所内の暮らしについてお話しした内容は、11月27日号と12月4日号の2号にわたって掲載されています。

 男子刑務所に比べれば、女子刑務所の規則はゆるいのですが、やはり塀の中は閉鎖空間なんです。いじめもありますし、何度もイヤな思いをしました。朝から晩まで規則ずくめの施設の中で過ごすのが懲役(受刑者)の毎日です。楽しみといえば、食事とたまの面会と手紙くらいで、顔を合わせるのは懲役仲間と刑務官だけ。こういう狭い空間にいると、考え方が狭くなるのも当たり前といえば当たり前ですね。

 例えば、いつも来ている手紙や面会、差し入れが少しでも遅れると、めっちゃ不安になりました。刑事事件を起こすと家族や友達から縁を切られることも多いので、家族が定期的にいろいろやってくれた私は、まだ恵まれているほうでしたが。


■「BL本」の差し入れで取り越し苦労

 そんなある日、夫から「BL本」の差し入れがありました。美少年同性愛の漫画ですね。私はお料理の本や旅の本、やくざのノンフィクションやレディコミなどの漫画が好きで、よく差し入れてもらっていたのですが、この時はなぜかBL……。私はそっち系の趣味はないし、もちろんリクエストした覚えもありません。なんでこんな本を送ってきたんやろか……。ちょっと考えてハッとしました。

「もしや男が好きになったから、私と離婚したいのと違うんかな?」

 今思うとバカバカしいのですが、いかんせん閉鎖空間ですし、近くにいないので、すぐには確かめられませんから、不安がめっちゃ募りました。

「やっぱり私がポン中やから、愛想尽かされたんやろか……」
「でも、なんでよりによってBL???」


 ぐるぐると考えていると、夜も眠れません。しばらく妄想でキレそうな毎日でしたが、少したって、夫が面会に来てくれました。

「なあ……あの漫画、何なん?」面会時間は短いので、あいさつもそこそこに聞いてみました。

「あの漫画て?」
「ほら、あのBL……」
「びーえる? て何?」
「ええー? 先月差し入れてくれた漫画やんか……」
「知らんがな。漫画は、本屋で売れてるやつを選んでもろてるだけや」
「えっ?」
「どんな本がええかわからんし。売れてる中から選んだだけやねん」
「……そ、そうやったんか……」

 おかげさまで、めっちゃ安心しました。シャバならしょうもない疑惑ですが、あの時は真剣だったのです。

週刊大衆 2017年 11/27 号 [雑誌]