[女性誌速攻レビュー]「婦人公論」2月28日号

“いい病院の見分け方”特集に「主治医に恋した」読者体験手記を持ってくる「婦人公論」

2017/02/24 20:30

 しかし、この特集は「お金」だけでなく「生きがい」も求める、老後の働き方指南。そう考えると、やはりうっとりと精神論を語ってもらうほうがいいのでしょう。夏木マリの「好きなことを続けるために私は、お金から目を背けない」を読んでそう思い直しました。

 大ヒット曲「絹の靴下」を引っ提げてキャバレー回りをしていた20代、思い切って演劇の世界に飛び込んだ30代、理想の舞台を追い求めてストイックになりすぎた40代、お金の大事さに気づきバランスの取れる仕事法を模索し始めた50代、そして今。「本気でおもちゃで遊んだ子どもの頃のような感覚に戻れるのが、まさに60代なのではないか。だから60代以降は遊びの適齢期、遊ぶチャンスだと思いませんか」「自分の肩書きは『プレイヤー』だと考えています。遊ぶ人です! これからも本気で遊びたいと思います」と高らかに宣言する夏木。60歳を「ロクマル」と呼び、人生の分岐点を「チェンジマインド」という夏木マリを、一生現役のお手本に……やっぱりどう考えてもなんねぇな!!

■いい病院・悪い病院ではなく、面倒な患者がメインに

 寿命が延びても、健康でなければ働けない。来るべきセカンドライフに向けて気になるのは、巻末特集「いい病院、悪い病院の見分け方」です。先ほどの「一生現役」企画と対照的にガチガチの実用ページが並びます。「危ない病院と医師を見極める13のチェックポイント」「夫・大橋巨泉の最期に今も悔いが残ります」「<覆面座談会>医療のプロが打ち明ける『こんな病院には絶対に行きたくない』」。そりゃそうです。人の命がかかっているんです。しかし特集最後のページを見て、膝からガックリ崩れ落ちました。察しのいい方はもうおわかりでしょう。「<読者体験手記>主治医に恋して」。恋!?

 「病で心身ともに弱ったとき、一番の心の支えとなるのは担当医!? 信頼が特別な感情へと変化することも珍しくないようで……」という言い訳リードに導かれながら紹介されている、2篇のホスピタルラブストーリー。特に注目は、52歳・主婦による「がん宣告で落ち込んでいた私の心の支えとなったのは、夫ではなく、純粋でお茶目な年下の外科医だった」です。セカンドオピニオンで訪れた病院で出会った2人。自分の言うことにイチイチ頬を赤らめ、本来看護師が担当するような身の回りの世話までしてくれる担当外科医。その様子を見て態度を急変させ、主婦にキツく当たり続けるベテラン看護師、そして手術後の一番つらい状態なのにデリカシーのない言葉ばかり浴びせる夫……平日13時半の東海テレビ制作の昼ドラ枠がまだあったら、即採用されそうな話なのに!!


 「『ちょっと傷口を見せてください』と、ベッドサイドに腰掛け、私のパジャマのボタンをはずし始めました。そんな大胆なことをしながらも、先生の顔は真っ赤です」「私は、先生の両手に自分の手を重ねて……」といったエピソードが延々とつづられています。そして極め付きはこちら。退院の前日、ベテラン看護師から受けたさまざまな嫌がらせを告白し、「イスから立ち上がり、握りこぶしを作る」ほど怒りに満ちた外科医を、「もう7か月経ちましたから、時効です。その看護師さんの名前も言いません」となだめる女性。いやいや、けしかけたのオマエやないか~い。

 こんな昼ドラ的愛憎の間に「『あんた美人だから、診察の時間が私よりも長いんじゃない?』とからかわれることがありますが」「一回りくらい若く見られることもあるけれど」と、自らのプロフィールを挟むことも忘れない。「婦人公論」っぽいといえばそれまでですが、どんなつらい状況に置かれても「生」と「性」への強い業からは逃れられない。いや、こういう心持ちこそ病に打ち勝つ活力の源なのかもしれません。病院特集にこの体験手記を持ってきた「婦人公論」の奥深くも生々しいメッセージにしばし言葉を失いました。
(西澤千央)

最終更新:2017/02/24 20:35
婦人公論 2017年 2/28 号 [雑誌]
この手記書いたの、松田聖子じゃないよね?