『結婚さえできればいいと思っていたけど』著者・水谷さるころさんインタビュー(後編)

事実婚が増えれば、夫婦別姓が実現するかもしれない——「未届けの妻」のメリットとは?

2017/01/06 15:00

■事実婚が増えたら、法律が変わるかもしれない

――ところで、お子さんもいらっしゃいますよね。事実婚で特に問題はないですか?

水谷 別にないですね。びっくりするほど、何もありません。久々に「おぉっ!」と思ったのは、この間、息子が手術をして、半日入院した時です。たくさん書類があったので、保護者として、私と夫でサインをしていたんです。

 そうしたら、息子が手術室に運ばれていった後に、「ちょっとお話が……」と呼び出されて、「お母様とお子さんのお名前が違うんですけど、どういったご事情でしょうか?」と聞かれました。今まで1回も聞かれたことがなかったから、気がつかなかった。「うちは事実婚なので母子別姓で、息子の籍は夫側。でも親権者は私です。生活は一緒にしていて、家族です」と伝えたら、それで終わりでした。それぐらいですね。

――お子さんの籍は旦那さん側ですか? 入籍しない場合、女性側の籍に入るのかと思っていました。


水谷 子どもの名前は夫側の姓にしたかったので、一度、籍を入れて、夫の姓(野田)で産んで、離婚しているんです。

 ご指摘の通り、結婚をしないで子どもを産むと、自動的に女性側の籍に入ります。別に自分の子どもを自分の姓にしたいという願望もないですし、夫の姓の方が親戚も多くて仲間もいっぱいでいいかなと思って。私の親は「娘の子が自分と同じ姓」なのを喜ぶ人たちでもなかったので子どもを自分の姓にするメリットもなくて。

 でも、結婚しないで野田姓にするには、家庭裁判所に行ったり、手続きがなかなか面倒臭いんです。それで出産する時だけ入籍して、野田になって、産んでから離婚しました。それなら、書類を出すだけで終わりますから。

――わざわざ結婚&離婚されていたんですね。一度籍を入れたら、そのまま流されてしまいそうですが。

水谷 私がもう結婚したくないと思う理由のひとつに、結婚すると、金融機関の名前の変更があるんですよ。私の場合、取引先の多数の会社に入金用口座の変更をお願いする必要があるので、本当に大変。ですから、半年ぐらいであれば、準備期間として、クレジットカード会社や金融機関からも何も言われないので、結婚して半年くらいで離婚という方法をとりました。


 それから、小さな政治的な主張という意味合いもなくはありません。今、日本では夫婦別姓が認められていません。今後もしも事実婚をしている人が増えて、半分とはいかなくても、1~2割ぐらいの無視できない数になってきたら、事実上、法律婚の必要性が低くなっているから、ということで、法律が変わるかもしれない。制度を実情に合わせるべきと主張した方が、法律が変わることが多いですから。今の状態で、選択的別姓の運動をしても、昭和22年に廃止されはしたものの、女性が男性側の戸籍に属する「家制度」の名残がある日本では難しいと思っています。

 男女差別なんて、もうないよね? と思っていましたが、それは、先人の働く女性が戦ってくれたおかげで、そう感じていただけで、まだ道は半ば。今は過渡期だからしょうがないですよね。

――もっと事実婚を浸透させていくには、どうしたらよいと思いますか?

水谷 一番簡単なのは「結婚しました」と言って、事実婚状態にしておくことだと思います。事実婚で不便だと思ったら籍を入れれば、何の不便もない。婚姻届なんて、書くだけ書いて、しまっておけばいいんですよ。本当にそれでいい。結婚式も挙げて、「結婚しました」と言って、婚姻届も書いて、棚にしまう。引っ越しの時に「未届けの妻」にしておけば、実質的にも「妻」だし、子どもが生まれた時に、婚姻届を使うかどうか考えればいい。私のおすすめは、“しれっと事実婚”です。

 「結婚したら、夫が支配的になった」とか「結婚前の約束は嘘だった」といった場合でも、関係を解消しやすい。浮気は事実婚でも民事で裁判できますから、法律婚はするなら相続問題が現実的になる頃、事実婚20年目の記念などに「20年仲良くできたね」と、してみてもいいんじゃないかな――と思ったりしています。
(上浦未来)

水谷さるころ(みずたに・さるころ)
1976年千葉県生まれ。女子美術大学短期大学部卒業。イラストレーター。マンガ家、グラフィックデザイナー。99年「コミック・キュー」(イースト・プレス)にてマンガ家デビュー。2008年に旅チャンネルの番組『行くぞ!30日間世界一周』に出演、のちにその道中の顛末を『30日間世界一周!』(イースト・プレス、以下同)としてマンガ化(全3巻)する。そのほかの著書に旅マンガ『35日間世界一周!!』(全5巻)、『世界ボンクラ2人旅!』(全2巻)がある。趣味は空手。

最終更新:2017/01/06 15:00
結婚さえできればいいと思っていたけど (幻冬舎単行本)
いろんな結婚の形があってもいい