サイゾーウーマンカルチャーインタビュー生きづらさから解放されたい女性詩人 カルチャー 詩人・文月悠光さんインタビュー 「セクハラ発言が許容される社会へのモヤモヤ」詩人・文月悠光が語る、女性の生きづらさとは 2016/10/20 15:00 インタビュー ■容姿を売り物にしたのではない。引き受けるのと、他人から押しつけられるのは違う ――文月さんはアイドルオーディションの「ミスiD 2014」に応募して、アイドル活動もされていましたが、それはなぜですか? 文月 当時、ミスiD 2013で西田藍さんが選ばれた後だったので、文芸やサブカル、オタクっぽい趣味の活動がアイドルの一要素として評価されるのは面白いなと思ったんです。そんなときオーディションのエントリー募集のツイートがタイムラインに流れてきて、「もしかしたら……」と思ってエントリーしました。 ミスiDって、歌って踊れるアイドルを輩出するわけではなく、個性的な女の子の活動を応援する趣旨の、少し特殊なオーディションじゃないですか。なのに、詩人がアイドルオーディションに出た、というだけで「容姿を売り物にしたいのか」と叩かれてしまった。そういう側面は否めないかもしれませんが、当時の自分としては「詩を他ジャンルに広めたい」とか、「アイドルファンの人たちにも詩に興味をもってもらいたい」という思いが強かったんです。今思うと、大人たちからの期待を引き受けすぎてしまったな、という反省はあります。 しかし、「容姿を売り物にしたいのか」と言ってくる人には反論があります。私はオーディションに出る前から、求めてもいないのに、容姿や年齢について一方的に評価を下されてきました。「女子高生で詩人である」というだけで2ちゃんねるにスレッドが立って、写りの悪い写真を転載されてブスだと叩かれたり、本名や学校名を晒されたりと、10代の頃から嫌な思いをしてきました。作品とはまったく関係ない情報で勝手に評価を下されてしまう。もはやこれは自分で引き受けてしまった方が楽だと思って、あえてオーディションに出たという面もあります。そのように自分から引き受けに行くのと、他人に押しつけられるのは、まったく違うんです。 セクハラめいた質問をしてくる男性への衝撃をエッセイに書いていることと、ミスiDに出ているという経歴が矛盾しているんじゃないかとも、よく言われてしまうのですが、私の中で、そこは矛盾していないんですよ。どちらも、自分が今まで押しつけられてきた役割や、それに対する息苦しさを、自分から引き受けに行く、提示して捉え直す、というところでは変わらないと思っています。 ――ミスiDに出たことで、文月さんの中で何か変わりましたか? 文月 エッセイの中でも書いているのですが、詩を、書き手である自分の立場から売り込んでいくことに、私はどうしても抵抗がありました。でも、実質的にはミスiDに出たことにより、アイドルファンが詩を知ってくれて、詩集を買って読んでくれた人もたくさんいました。そのことは、すごくうれしかったですね。 あと「面白いな」と感じたことで言えば、取材の扱いが大きく変わりました。それまでは顔が写っていればいいという程度で、記者の人が2~3枚撮って終わりだったのが、アイドルという肩書がついたとたん、カメラマンに100枚近く撮影されるとか。私の活動自体はほとんど変わらないのに、肩書によって扱われ方が変わったのは、奇妙で面白かったです。 ――エッセイを読んだ方の中には、文月さんが書いているような生きづらさに共感している方も多くいると思います。どうすれば、生きづらさから解放されて、楽になるのでしょうか? 文月 単純に生きづらさを感じない生活をしたいのなら、鈍感になった方が楽だと思うんです。深く考えずに人から求められる役割をこなしていけば、自分も傷付くことはないし、周りも不快にさせない。私もその鈍感さに引きずられることはあるのですが、実はそれって誰のためにもならない、という気がします。その場をしのぐことはできても、根本の息苦しさは解消されない。 どうしたら女性が生きやすくなるのか、女性ばかりが頭をひねって考えていますが、男性にも背負ってほしい、というのが本音です。女性が生きやすい社会は、男性も生きやすい社会のはずですから。限られた「生きやすさ」を、男女で奪い合っているわけではないんです。実際、『洗礼ダイアリー』で描いた「生きづらさ」には、多くの若い男性が共感してくれました。 セクハラのエッセイも「そんなひどいことを言う男性もいるんだなあ」「文月さんの周りにはロクな男性がいないんだね」と他人事のように読む男性が多かったのですが、ご自身の立場からまっすぐに受け止めてもらえたら、私としてはよりうれしいです(笑)。 (姫野ケイ) 文月悠光(ふづき・ゆみ) 詩人。1991年北海道生まれ。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年生時に出した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少の18歳で受賞。今年9月、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)を刊行。ウェブマガジン「cakes」でエッセイを連載中。10月末に、第3詩集『わたしたちの猫』をナナロク社より刊行予定。NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆など、幅広く活動している。 前のページ12 最終更新:2016/10/20 15:00 Amazon 洗礼ダイアリー セクハラがなくなる日は来るのか? 関連記事 V6・井ノ原快彦、セクハラ特集の“男前発言”が話題! 『あさイチ』で人気急上昇のワケ介護現場でセクハラが多い理由 見て見ぬ振りをされた高齢者の性“男社会”だった吉本興業の伝説的女性マネジャーが語る、セクハラ・パワハラと女の媚女性議員の女性差別やセクハラで見つめ直したい、「女性の多様化」の意味「男に媚びを売ってポジションをつくる女が増えている」ピンク映画界の巨匠が語る、現代女性の生き方 次の記事 石原さとみ&山下智久の恋愛遍歴 >