NPO法人「しあわせなみだ」副理事長・卜沢彩子さんインタビュー

「一度、性暴力に遭った女性は繰り返し遭う」友人や家族が被害者になったら、どうすればいいか

2016/09/30 15:00
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NPO法人「しあわせなみだ」副理事長・卜沢彩子さん

「強姦被害に遭った」ーー親しい友人や家族からこう打ち明けられたら、あなたはどう反応するだろう? その事実をどう受け止め、そして当事者にどう接するのか?

■被害者をさらに傷つけるセカンドレイプ

 NPO法人「しあわせなみだ」の副理事長、卜沢彩子(うらさわ あやこ)さんは自身も性暴力サバイバー(被害から生き延びた人)であり、その体験をもとに現在は同じサバイバー女性のサポートと、性暴力ゼロを目指す啓蒙活動に力を入れている。講演会やメディアの取材などで性暴力被害について話すと、必ず次のような反応があるという。

「『私の周りにはそういう人がいないから、考えたこともなかった』……こうおっしゃる方は本当に多いです。性暴力被害を訴え出る人はごく一部で、水面下に数えきれないほどの“声を上げられない被害者”がいると知っていても、それはテレビの向こうで起きていることだと思っているようです」

 当事者への想像力を感じられない“セカンドレイプ“発言だが、そこに悪気はない、と卜沢さん。


「性暴力は自分の身近にあると、認めたくないんですね。なぜなら、それはとても恐ろしいことだから。聞く側に心の準備ができていないと、その恐怖心から反射的に拒否し、自分を守ろうとします。“誰でも性暴力の被害者になり得る”という知識が広く行き渡っていれば、当事者を傷つけるセカンドレイプ発言も減ると思うのですが。

 私の性暴力被害経験を発信すると、『被害者ぶっている』『たいしたことされていないのに、騒ぎすぎ』と言われたこともあります。これも被害の実態に想像が及ばないゆえのセカンドレイプ発言です。ほとんどの被害者は、親しい人にも何をされたか詳細に語らない。なのに一方的に“たいしたことではない”と判断されるのは、悲しいことです。いずれにしても、発言の裏にあるのは性暴力への無理解や想像力の欠如であって、悪意ではないことが多いんです」

 卜沢さんは大学在学中に、被害に遭った。飲み会の帰り道、他大OBの男性が強引に自宅へと誘導し、抵抗する卜沢さんに力ずくで性行為を強要した。自宅に侵入した窃盗犯に強姦されそうになったこともある。10代の頃から頻繁に痴漢に遭い、「囲み痴漢」といわれる集団痴漢被害も経験している。

「私のこれまでの被害を聞いて、『よかったね』と言った人もいます。乱暴されたとはいえ、性器の挿入にまでは一度も至っていないのを受け、もっとひどいことにならなくてよかったね……と。不幸中の幸い、という気遣いなのでしょうが、暴力を受けたことを私は『よかった』とまったく思えませんし、同じような被害に遭った女性がこんなことを言われたら……と思うと、胸が痛みます。

 被害者にかけられる言葉で多いのが、『スカートをはいていたから、そんな目に遭ったんじゃない?』『女性的なルックスをしているせいで、ヘンな人を引きつける』『あなたが無防備だから』という類いのもの。これも、心配して言ってくれているんですよ。外見に気をつけ、警戒を怠らないという“自衛”をすれば、被害に遭わないよ……という意味なんですが、それは強姦神話であり、やはりセカンドレイプの一種です。どんな格好をしていようと、それは性暴力に遭う理由になりませんし、実際それによって狙われやすくなるという因果関係もありません。しかも私は、被害女性に自衛を求めるのは逆効果だと考えています」


 先ほど挙げた、卜沢さんの大まかな被害経歴を読み、ひとりの女性がそんなに被害に遭うものなのだろうか? と疑問に思った人もいるだろう。何度も遭うということは、彼女自身に原因があるのではないか? とも。

「一度、性暴力に遭った女性は、繰り返し遭う。性暴力の相談では『誰にも言えなかった、だって自分ばかり遭うから』『ほかの人はぜんぜん遭わないのに、なぜ私だけ何度も』という声をよく聞きます。繰り返し被害に遭うと、そのうち『あ~、またか』『自分は遭いやすいからしょうがない』と、あきらめるようになります。私も、そうでした。そのたびに自尊心が削がれますが、加害男性は性欲でなく支配欲から性暴力を行うので、そうした女性を意識的にも無意識的にも見つけ出して近づいてきます。『私は一度も被害に遭ったことがないし、これからも遭うと思わない』と思っている女性は、彼らにとって狙いにくいのです。繰り返し被害に遭う女性は、繰り返しセカンドレイプに遭っている女性でもあります。自衛を求められ、それをしなかった自分が悪いと自分を責め、自己肯定感が下がることで、次の被害を引き寄せてしまうからです」

性暴力被害者への支援: 臨床実践の現場から