「タレント本という名の経典」

「自虐発言」「女嫌い」「男好みのオバちゃん演技」有働由美子アナが出世した3つの理由

2014/11/29 19:00
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『ウドウロク』(新潮社)

――タレント本。それは教祖というべきタレントと信者(=ファン)をつなぐ“経典”。その中にはどんな教えが書かれ、ファンは何に心酔していくのか。そこから、現代の縮図が見えてくる……。

 NHKの有働由美子アナウンサーが、初エッセイ『ウドウロク』(新潮社)を上梓した。冒頭を飾るのは、有働アナの代名詞「ワキ汗騒動」に関する顛末である。『あさイチ』で、脇の下に大きな汗染みを作った有働アナに、視聴者から意見が殺到。批判もあったが、有働アナの知名度を高めた。「ワタクシも転んでもただでは起きないのである」という結びの一文を読んで、やはり出世する女性は違うと膝を打った。本書は「出世したい女性のハウツー」であるといえるだろう。

 有働アナは自身を「容姿やアナウンス力では勝負できない」と分析、並み居る美女アナに勝ちぬくため「個性」を磨くという。有働アナいわく、個性とは自分が思うものでなく、「他人がどう見ているか」が重要だそうだが、筆者はそこに「出世の三本柱」があるように思う。その1つが「自虐」である。

■からかわれキャラのメリット

 有働アナといえば、「四十代」「独身」「おばちゃん」の自虐発言が多い。本書の「はじめに」の数ページを見ても「四十も過ぎると、誰かのエッセイを読んでも嫉妬で曲解してしまい(以下、略)」「(本を出すことは)四十女のたった一つの夢」と、過剰なまでに自らを積極的におとしめる。善良なる人々は、その言葉を真に受けて、「そんなことないよ、素敵です!」とエールを送るのだろう。が、筆者のようにひねくれた人間は、そのしたたかさに舌を巻くばかりだ。


 日本社会では、若い女性は価値が高いとされ、また既婚女性は未婚女性よりも「上」とする、カーストが存在する。「下」扱いされて愉快な女性はいないだろうが、有働アナはあえて自ら「下」をアピールする「逆マウンティング」を行う。なぜ「下」を狙うかといえば、「逆マウンティング」は老若男女に有効な好感度稼ぎだからである。

 職場でも「君は結婚していないから、カーストは下だね」と他人が言えばセクハラだが、本人が言う分には「ユーモアがあり、さばけている」と男に認識され、出番が多く回ってくる。女に上から物を言うのが大好きな男は多く、そういう男性は「どうして私は結婚できないんですかね」としおらしい態度を取る女に「そういうところがダメなんだ」と説教できて、いい気持ちでいられる。

 また『あさイチ』は主婦層の視聴者が多いと思われるが、女は結婚して子どもを産んで一人前と信じる宗派の主婦層に優越感を与え、子どもが独身であることにお悩みの母親層からも、「こんな立派な仕事をしてる人だって独身なんだから、うちの子だって大丈夫」と無言の励ましを与えることになる。「逆マウンティング」することによって、有働アナは周囲からからかわれるが、その分、手心も加えて守られるという「末っ子」ポジションを確立したのである。

『ウドウロク』