サイゾーウーマンコラム“オレオレ詐欺”が暴いた、老親の本音 コラム 介護をめぐる家族・人間模様【第34話】 「人妻を妊娠させてしまった」息子を騙る“オレオレ詐欺”が暴いた、老親の本音 2014/06/28 19:00 介護をめぐる家族・人間模様 NHKの夕方のローカルニュース『首都圏ネットワーク』に、「ストップ詐欺被害!」というコーナーがある。いろいろな詐欺の手口を紹介しながらキーワードとなるフレーズを示して、高齢の視聴者に注意を喚起するものだ。毎回似たようなキーワードが繰り返されているが、それだけ同じ手口にだまされる高齢者が多いということだろう。たとえ耳にタコができようとも、機会をとらえてオレオレ詐欺の手口を伝えることはやはり必要だと思える話を聞いた。それが今回のお話。 <登場人物プロフィール> 橋口 栄一(45) 東京都内で一人暮らし。結婚歴はない 橋口 昭(74) 栄一さんの父親。埼玉で、夫婦二人暮らし 橋口 サト子(73)栄一さんの母親 ■50万が出せないと親に思われた自分が情けない 橋口さんには、飲み会で場を盛り上げる“鉄板ネタ”がある。親に「オレオレ詐欺」の電話がかかってきた話だ。 「うちに来た電話は、『人妻を妊娠させてしまったから、金が必要』というものでした。僕は会社勤めを十数年前にやめてフリーで仕事をしているので、もし『会社のお金をなくした』という電話だったら、母親もさすがに怪しいと思ったでしょうが、サラリーマンでもなく、いまだに独身の僕だけに、『人妻を妊娠させた』という話はいかにも本当っぽかったんでしょうね。だからその詐欺電話を、僕からだとすっかり信じ込んでしまったんです」 と、橋口さんは苦笑する。動転した母親は、電話を切ると在宅していた父親に相談した。ここで慌ててお金を犯人に振り込まなかったことは、両親にとって幸運だった。 「といっても、決して親父が賢明だったというわけではないんです。単にケチだっただけなんですよ(笑)。たった50万円でも」 50万円? オレオレ詐欺の電話にしては、ずいぶんと安い。思わずそうつぶやくと、橋口さんは自虐的に言った。 「まったくですよ。犯人もあまりに現実的というか、小さいというか。それくらいなら、簡単にだまし取れると思ったんでしょうね。それでも、不肖の息子のために50万ぽっちでも取られるのが惜しいと思う親父も親父なら、いい年をした息子が50万にも困るような暮らしをしていると思い込んだ母親も母親で……。それほど信用がないのかと、今更ながら情けなくなりましたよ」 ■「初孫ができる」と喜んだ母 “息子を信用していない”母親は要求された金額を振り込もうとしたが、“ケチ”な父親が橋口さんに「本当に、たった50万も払えないのか」と念押しの電話をかけたことで、オレオレ詐欺だと判明したという。経緯はどうあれ、ともかく被害がなくてよかった。もちろん橋口さんもそうは思っているが、表情は複雑だ。 「50万にも困る生活をしているんじゃないか、と一瞬でも親に思わせてしまうほど、僕は親に心配をかけているんだなあと。これまで、実家に顔を出すことも滅多にありませんでしたが、これからはもう少し顔を出さないといけないなと思いました。でもそれよりショックだったのが、母親がこの詐欺電話をどこかで喜んでいたのがわかったことです」 喜ぶ? 「僕は一人息子なんです。昔は母親も頻繁に見合い話を持ってきていましたが、僕がまったく聞く耳を持たないのでようやくあきらめたようで、もう結婚の“け”の字も口にしなくなっていました。でも、やはり僕がいつまでも1人でいることはずっと気にかかっていたし、母親も寂しかったんでしょう。親戚や友達の間で、孫がいないのはうちの母親くらい。それが相手が人妻とはいえ、『うちにも初孫ができる』と喜んだふしがあったんです。飲み屋では、これをオチにして笑いを取ってはいますが、正直なところなんとも切なかったですね。なんて親不孝な息子なんだろうと。だからといって、今更婚活するつもりもないですが」 オレオレ詐欺がきっかけとなり、自らの来し方行く末を考えることになったというのも、なんとも皮肉な話だ。さらにこの詐欺電話からひと月ほどして、それまで元気だった父親が体調を壊して入院、手術することになった。母親とともに何度も病院に通いながら、いつまでも親が元気でいるわけではないことを、あらためて痛感したという。「オレオレ詐欺がパンドラの箱を開けたようだ」と橋口さんはため息をつく。親の老いと、どう向き合うか……オレオレ詐欺がなくても、いつかは直面することだったとも言えるのだが。 最終更新:2019/05/21 16:06 Amazon 『悪魔のささやき「オレオレ、オレ」: 日本で最初に振り込み詐欺を始めた男』 パンドラの箱なんかじゃないんだよ 関連記事 「父が死んだら兄と決別しようと思う」父親の介護をめぐる、姉妹と引きこもりの兄「お父さんがボケてくれてよかった」下半身不随となった父、踏ん張り続けた娘と母「見てあげられる間だけでも、好きにさせてやりたい」息子を介護する母親の姿「介護を助けてあげようなんて10年早かった」単身赴任で実家に戻った息子の後悔「母親は自宅でみてやりたい」親族4人の介護のため辞職した長男の3年後 次の記事 「軟膏ぬりちゃん」プレゼント >