コラム
深澤真紀の「うまないうーまん」第16回

完璧を目指さず、迷惑前提の子育てを! 違う形で他人の迷惑を引き受ければいい

2014/06/22 16:00
イラスト:小野ほりでい

 自分自身が小さい頃から「子供を産まないだろう」と思っていて、結婚しても子供を産まなかった私だが、子供嫌いなわけではないし、子供のいた人生もきっと面白かっただろうと思う。ただ、「日本で子育てするのは大変だなあ」と思ってしまうことも多い。

 例えば、ベビーカー論争だ。「電車やバスなど混雑した車内では、ベビーカーは邪魔」という声が多くなり、メディアでも特集されるようになったことから、国土交通省が「畳まなくてもOK」というルールを示し、ベビーカーマークを作って配布するのだという。

 また、子供用ハーネス(迷子ヒモ)をつけることについて、「犬みたい」「奴隷みたい」という反対の声がメディアで話題になった。

 自宅の近所に保育所ができるのを、「うるさくなるから」と反対し、計画が頓挫しているケースも多く、すでにある幼稚園や保育所では、防音対策をしたり、子供を外に出す時間を制限したりと、周囲の苦情に最大限対処しているという。

 こういった話を聞くたびに、「自分だって子供だったのに、なんという心の狭さか……」と思う。

 ベビーカーやハーネスは、子供の安全のためにも必要だろう。こう言うと、「子供の安全のためなんかじゃなくて、母親が楽をするために使っているだけだろう」と言う人も多いのだが、そもそも「子育てで楽をしてはいけない」のだろうか。基本的に大変な子育てだからこそ、少しでも楽をできる手段があれば、積極的にそれを使ってもらう方がいいと思うのだ。

 私は以前、友人の子供があまりにも元気で、少し目を離すとすぐに走り出してしまうタイプだったので、友人に「こんなこと余計なお世話かもしれないけど、子供用のハーネス使うというのはどうなのかな」と聞いたことがある。すると、「使ってみたいけど、自分で買うのは抵抗があって……」と言うので、「じゃあ私がプレゼントするのでどう?」と、プレゼントしたことがある。それによって「自分で買ったわけではないのだが、元気すぎる子供を心配してくれた人が買ってくれた」というエクスキューズができた、と友人も喜んで使っていた。とはいえ、それを聞いた人の中には、「ハーネスをプレゼントしてくれた人は、あなたの子供が迷惑であることを遠回しに伝えているのだ」と言った人もいるそうで、本当に面倒くさいなあ、と思ったものである。

 また「保育所がうるさい」と反対する人は、高齢者施設が近所にできる時にも「老人が徘徊したら迷惑だから」と反対するのだろうか。仮にそう思っても、高齢者施設には文句を言いにくく、保育所には文句を言いやすいのだろう。なぜならば高齢者施設は「これから自分の行く道」だから何も言えないが、子育ては多くの人が「自分も経験のある道」で、「自分はもっと子育てで苦労をした」「今の若い母親はレベルが低い」などと言いやすいからだ。要するに「子育てを叩く」のは実は一番楽な批判なのであり、その人間のレベルが知れるということでもある。

■いまなお「アグネス論争」と変わらぬ現状

 さて、この子育て論争が起こるようになったのは、女性が子育てしながら働いたり、外に出る機会が増えるようになったからだが、その端緒となった有名な子育て論争がある。それが「アグネス論争」である。

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