『なんかおもしろいマンガ』あります ~女子マンガ月報~【6月】前編

杉浦日向子『百日紅』はじめ『信長協奏曲』も映画化! “女子時代劇マンガ”がキテる!

2014/06/11 16:00

女子マンガ研究家の小田真琴です。太洋社の「コミック発売予定一覧」によりますと、たとえば2014年5月には977点ものマンガが刊行されています。その中から一般読者が「なんかおもしろいマンガ」を探し当てるのは至難のワザ。この記事があなたの「なんかおもしろいマンガ」探しの一助になれば幸いであります。まずは5月の話題と女性向けマンガ各誌をチェックいたしましょう。

[話題]このちょんまげがアツい! 「女子時代劇マンガ」ブーム到来の予感

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(左)『死にたがりと雲雀』1(講談社) (右)『かぶき伊左4』(エンターブレイン)

 山中ヒコ先生の新作『死にたがりと雲雀』1(講談社)を楽しく読んでいたところ、あとがきにこうありました。「この『死にたがりと雲雀』は一度断られた企画です」との述懐に、おそらくは実際に断られた際の、編集者の言葉が添えられています。「ちょんまげはうちではちょっと…うちの読者層と合いませんし…面白かったですよ。私は好きですよ」。これに対して山中先生は「何でですか。みんなちょんまげ好きじゃないんですか」と反論するのですが、「山中さん…ご存知です…? 今は民放時代劇枠ゼロの時代だって…!!」とねじ伏せられてしまうのでした。

 わたしはビックリしてしまいました。なぜならむしろ今ほど女子マンガ界にちょんまげ=時代劇が溢れかえっている時代はないと思っていたからです。その筆頭が岡田屋鉄蔵先生。2011年冬に刊行された『ひらひら 国芳一門浮世譚』(太田出版)は、歌川国芳の門下に集った70余名の弟子たちとその関係性を、人情味たっぷりに描いた女子時代劇マンガの大傑作です。13年刊行の『極楽長屋』(マッグガーデン)でも、長屋という舞台装置を巧みに生かして人間関係の機微を描き出しました。そしてなにしろ男たちの体臭すら漂ってきそうな迫力ある絵は、岡田屋先生ならではでありましょう。

 一方、より少女マンガ的なタッチでちょんまげを描くのは、若き俊英・紗久楽さわ先生です。江戸後期の歌舞伎界を描いた『かぶき伊左』(エンターブレイン)は、少女マンガと時代劇の最も幸せなマリアージュとして、後世まで語り継がれることでしょう。おそらくは五代目尾上菊五郎と九代目市川團十郎をモデルとしたであろう、男たちの歌舞伎に懸ける情熱の物語は、熱く、スリリングで、そしてなにしろ美しい! 最終巻となる4巻が6月13日に発売されますので、これを機に、ぜひまとめてお読みくださいませ。


 そのほか現在連載中のものだけでも森本梢子先生『アシガール』(集英社)や、今さら挙げるまでもない大ヒット作、よしながふみ先生『大奥』(白泉社)など、女子時代劇は枚挙にいとまがありません。旧作では河内遙先生『チルヒ 河内遙時代短編集』(小池書院)なども忘れがたい1冊です。

 そもそも「女子時代劇」とでも言うべきジャンルの原型を形作ったのは杉浦日向子先生でした。このタイミングで代表作である『百日紅』(筑摩書房)が原恵一監督の手によって映画化されるのも、なにかの縁でありましょう。石井あゆみ先生の『信長協奏曲』(小学館)もアニメ化、テレビドラマ化、映画化が決定したことですし、女子時代劇に大きなポテンシャルが秘められていることは、もはや疑いようがありません。時代考証など面倒なことも多い時代劇ですが、どうかこれからもたくさんの作品を読ませていただきたいと願います。

『百日紅 (上) (ちくま文庫)』