サイゾーウーマンカルチャーインタビュー出生前診断による選択的中絶を考える カルチャー 『誰も知らないわたしたちのこと』著者シモーナ・スパラコ氏来日講演 完璧を求める社会が闇に追いやった、出生前診断による選択的中絶問題 2014/04/10 22:00 悩み抜いた結果、選択的中絶を受け入れたとして、その後を支えてくれる仕組みがないこともシモーナ氏は指摘する。「選択的中絶を経験した人々の中には、自分は家族の死を悼む権利すらないと思っている人も少なくない。こういった家族をサポートする仕組みがある国もありますが、イタリアには残念ながらそうした制度がないため、厳しい経験を積んだ人たちが立ち直るのに、すごく時間がかかってしまう」。 そして質疑応答の最中、とある参加者が明かした「私がおなかにいた時、母親が風疹にかかったかもしれないと診断されたそうです。もしかしたら、私は耳の聞こえない状態で生まれてきたかもしれなかった」という言葉に触れ、シモーナ氏は出生前診断に潜む、本当の危険について語った。 「今我々が住む社会というのは、常に完璧であることを要求してくる社会であり、私たちはメディアが提示するパーフェクトなモデルであることを押しつけられている状況にあります。だから自分の子どもがパーフェクトじゃないかもしれないという不安に苛まれ、中絶を選んでしまう親がいるとしたら、それは子どもに問題があるのではなく、その母親に問題があるのです。しかしその母親を生んだのは何かといえば、社会。だからこそ私たちはそういった状況に陥らないための、社会に対する教育を行っていく必要があります」 完璧を求められる社会というのは、もちろん日本にも当てはまる。特に母親は完璧を求められる風潮が強い。そういったいわゆる「母性圧力」といったものを、イタリアではどのように捉えられているのだろうか。 「今イタリアでは、たくさんの女性が働いています。それは喜ばしいことである一方で、すごく大変にもなりました。子どもを抱えながら仕事をするというのが。日本ほど母性プレッシャーはありませんが、働く女性たちがなかなか援助を得られない状況も生まれたのです。過去においては若くして母親になっても、周りに親だのおばだのたくさん手伝ってくれる人がいたのですが、今はそういう人がいない。そして育児休暇も短く、出産後3カ月、長くても半年でオフィスに戻らなくてはいけない。一生懸命働いても、その給料のほとんどがベビーシッター代に消えていく状況なのです」 選択的中絶も、育児と仕事の両立も、“個人の問題”として片づけられれば、その問題の本質はいつまでも暗く小さな世界に閉じ込められたままだろう。「今、現代を生きる女性は本当に大変だと思います」。シモーナ氏は質疑応答をこんな言葉で締めくくった。完璧を要請される社会では、いくつもの『誰も知らないわたしたちのこと』が存在するのかもしれない。 (西澤千央) 前のページ12 最終更新:2014/04/11 15:02 Amazon 誰も知らないわたしたちのこと 日本でも本格的に討論すべき問題なのに…… 関連記事 「nina’s」入園入学手作りグッズ企画に見る、手作り=母性という強迫観念産んだだけで全部チャラ? 「婦人公論」誌上で母性神話のタブーに切り込む「愛しているけど許さない」遠野なぎこが絶望の果てに見いだした、実母との距離出産によって蓋が開いた……小島慶子が語る子育てにおける母親の影響「自分の強さを守ること」瀧波ユカリ氏にママ同士の“内政干渉”への防護策を聞く 次の記事 関ジャニ∞・錦戸、真剣交際を撮られる >