サイゾーウーマン芸能テレビドラマレビュー【ドラマレビュー】『Woman』 芸能 ドラマレビュー第12回『Woman』 『Woman』、ディテール描写と緊張感で役者をも追い詰める坂元裕二脚本の妙 2013/07/09 16:00 ドラマレビューWoman満島ひかり二階堂ふみ坂元裕二鈴木梨央高橋來小栗旬田中裕子 『Woman』公式サイトより 日本テレビ水曜午後10時枠で新たに始まった『Woman』は、シングルマザーを主人公にしたヒューマンドラマ。脚本は『それでも、生きてゆく』、『最高の離婚』(ともにフジテレビ系)が高い評価を受けた坂元裕二。チーフ演出は『Mother』(日本テレビ系)で坂元と組んだ水田伸生が担当。そして主演は『それでも、生きてゆく』に出演した満島ひかりという盤石の布陣によるスタートだ。 青柳小春(満島ひかり)は登山家の信(小栗旬)と結婚し、長女の望海(鈴木梨央)と長男の陸(高橋來)をもうける。しかし夫の信は駅のホームで転落事故に遭い、命を落とす。残された小春は1人で2人の子どもを育てることになる。 近年の坂元裕二作品が高く評価されるポイントは、大きく分けて2つある。1つは作品を埋め尽くすディテールの描写と、あるあるネタの数々。もう1つは極度の緊張感の中で展開される役者同士の演技バトルの面白さだ。 前者に関しては、小春のシングルマザーとしての日常描写がそれにあたる。小春がベビーカーを持って満員電車に乗った時の周囲の気まずい視線や咳をする音、託児所の値上げを告げるプリント。コンビニで電気料金を支払う際に、トントントンと威圧的に響く証明印を押す音等々、こういったシーンを積み重ねることで、シングルマザーの小春が、経済的・精神的にじわじわと追い詰められていく姿を見せている。 生活に限界を感じた小春は福祉事務所へ生活保護の申請に向かう。しかし、「今年は大変悲惨な出来事がありまして、たくさんの方が苦労されてます。一方で、生活保護でパチンコなどをされる方も~」と、応対した職員に一度断られる。作中では「2011年 夏」とクレジットが入るため、東日本大震災がらみのエピソードが入るだろうと気にしていたが、まさかこういう形でシングルマザーへの抑圧が描かれるとは思わなかった。「年金も生活保護も、いわば子どもたちの未来の財布から、抜き取っているようなもので」という台詞も、悪意がないだけに辛辣だ。 その後、何とか生活保護が受理されそうになり安堵する小春だったが、絶縁したはずの母親・植杉紗千(田中裕子)から、援助の申し出があったために(申請が通るには三親等以内の親戚からの援助が不可能であることが条件)、小春は生活保護を受けることができない。 ここまで余計な説明台詞もなく、小さなエピソードの積み重ねによって、物語のリアリティを積み上げていく手腕は実に見事だ。しかしそれは手段であって目的ではない。これを踏まえた上で、本作はもう1つの見どころである役者バトルへと向かっていく。 援助を断るために、小春は子どもたちを連れて、母親に会いにいく。薄暗い民家での20年ぶりの母子の再会。2人の間には修羅場一歩手前の重苦しい緊張感が存在するが、母親が差し出す麦茶やアイス、冷麦といった食事を交えての会話は、どこかユーモラスでもある。やがて小春は信が、紗千からお土産に渡された梨を拾おうとして駅のホームから転落したことを知る。紗千は罪の意識からか、家にあるお金をかき集めスーパーのチラシに包んで手渡そうとするが、小春は拒絶する。このシーンの手前には、普通なら一番の見せ場となる長台詞での小春の心情吐露の場面があるのだが、スーパーのチラシにお金を包む場面や、その時の親子の表情の方が印象的なのは、作り手の見せたいことが言葉では簡単に説明できない心の機微だからかもしれない。 『それでも、生きてゆく』でも被害者遺族と加害者家族が食事をするシーンで気まずさの中にある面白さを描いていたが、近年の坂元裕二は、極度の緊張状態に置かれた人間同士が生み出す面白いやりとりを繰り返し描いている。その結果、物語の面白さに加えて、役者のポテンシャルを極限まで引き上げることに成功している。言わば、この薄暗い民家は、満島ひかりと田中裕子にとってはプロレスのリングみたいなものだ。だから坂元裕二のドラマをみていると、漫画『ガラスの仮面』(白泉社)を読んでいる時のように、この場面では、役者はどういう気持ちだったのだろうか? と想像して一粒で二度楽しめる。 タイトルの『Woman』とは小春はもちろんのこと、紗千や、小春と血がつながらない妹の栞(二階堂ふみ)のことも含まれるのだろう。ほかにも女医の砂川藍子(谷村美月)や、小春と同じシングルマザーの蒲田由季(臼井あさ美)など、癖のある女優が揃っている。彼女たちがどんなシチュエーションに放り込まれてぶつかり合うのかが、今後の見どころだろう。 中でも最大の楽しみは満島ひかりと二階堂ふみの直接対決だ。どちらも園子温の映画で調教(演技指導)されて感情のネジがおかしくなっているエキセントリックな女優のため、激烈な怪獣バトルが見られるのではないかと期待している。 (成馬零一) 最終更新:2013/07/09 16:00 Amazon 『最高の離婚 DVD-BOX』 冷麦すする田中裕子の圧勝! 関連記事 非道さへ不快感と同時に、圧倒的な悪の魅力をえぐり出した『家族ゲーム』演出もストーリーも安直な『ラスト・シンデレラ』における三浦春馬の怪物性無残な結末ほど色気を放つ、弱々しくもえげつない男・長谷川博己の『雲の階段』『リーガル・ハイ』、物語を信じない弁護士の「人間なんてこんなもん」の肯定力『リッチマン、プアウーマン』が描いた、恋愛と流行の生き生きとした“軽薄”さ 次の記事 Twitterを教えたくない時の処世術 >