[連載]海外ドラマの向こうガワ

アメリカ人が理想とする友情ドラマ『フレンズ』

2010/01/04 19:00
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『フレンズ I 〈ファースト・シー
ズン〉』/ワーナー・ホーム・ビデオ

――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す!

 「アメリカ人は、とっても陽気でフレンドリー」。我々日本人はそんなイメージを抱きがちだが、実際には「広く、浅い交際関係」を理想とする、人間関係にドライなアメリカ人が圧倒的に多い。

 アメリカ人にとって、友人はTPO(時と場所、場合)に合わせて選ぶものであり、「必要なとき」にお互いをサポートしあうというスタイルが一般的だといえる。何より家族や恋人との時間を大切にし、優先順位がはっきりしているため、友人と「何をするにも一緒で、べったりな付き合い」をする人は稀なのであろう。両親や配偶者、恋人を「かけがえのない親友」だと表現する人が多いのも、家族や恋人を最優先とするアメリカン・スタイルを表している。

 しかし、家庭崩壊が増加してきた頃から、人々は次第に「自分のことを包み隠さず話せ、何でも相談できる無二の親友」を、家族や交際相手以外の「特定の誰か」に求める傾向に転じるようになってきた。この流れに乗ったテレビ業界は、90年代に友情をテーマとした、いわゆる「バディー・シットコム(Buddy Sitcom)」と呼ばれる、相棒、親友をテーマにしたシチュエーション・コメディー番組を数多く制作。『ふたりは友達!? ウィル&グレイス』や『ザット 70’sショー』など、多くのヒット作が生まれた。

 バディー・シットコムの中でも圧倒的な人気を誇り、世界的なヒットとなった作品がある。1994年から10年に渡り放送され、全米のみならず世界中を夢中にさせた男女6人の友情コメディー『フレンズ』である。

 『フレンズ』は、独身率が非常に高いとされる大都会ニューヨークに住む、「超仲良し」な独身男性3人と独身女性3人が繰り広げる「笑いアリ、涙アリ、感動アリ」の物語。友情だけでなく、恋愛やキャリア、家族などをテーマにしており、「子供がそのまま大人になったような」6人の軽快な会話や、失敗してもめげない姿が視聴者の共感を呼び、作品はたちまち大ヒットした。


■自己投影できるキャラで人気番組へ

 主要登場人物の6人は、美男美女ぞろいでカリスマ的な雰囲気を持っているが、キャラクター的に全くかぶることなく、全員が個性的で「クセ」があるのが特徴。几帳面で家事大好き、密かに皆が恐れる仕切り屋「モニカ」、自己中でワガママ娘だがキャリアウーマンへと大成長する「レイチェル」、自然体で空気読めない天然娘「フィービー」、モニカの兄で繊細で気弱なオタク「ロス」、ジョーク大好きドン引きも気にしない「チャンドラー」、自分大好き、女も大好きな俳優志願の「ジョーイ」。この6人の中から、視聴者は自己投影できるキャラを「必ず」見つけることが出来る、これもドラマの人気に繋がった。

 まるでコントのようなドタバタ・シーンもサマになっており、嫌味なシーンも後味悪くなく、知的で真面目なシーンもかっこよくこなせる。そんな主役6人は時の人となり、ハリウッドでは映画スターを超える有名人となった。得にレイチェル役を演じたジェニファー・アニストンの人気は絶大で、多くの女性が、彼女のファッション、メイク、ヘアー・スタイルを真似した。当時、イケメン俳優として一世を風靡していたブラッド・ピットも『フレンズ』を見て彼女の大ファンとなり、交際をスタート。ゲストとしてドラマにも出演し、大きな話題を呼んだ。

 ブラッド・ピットだけでなく、『フレンズ』には数多くのハリウッド・スターがこぞってゲスト出演しており、高視聴率に貢献。リース・ウィザースプーンや、ショーン・ペン、ウィノナ・ライダー、ダニー・デヴィート、スーザン・サランドンなど数多くの豪華スターが登場。『フレンズ』と共にNBCネットワークの看板番組として人気を集めていた『ER 緊急救命室』のジョージ・クルーニーとノア・ワイリーが揃って出演し、ファンを大喜びさせたこともあった。ブルース・ウィルスとクリスティナ・アップルゲイトはエミー賞を受賞するなど「単なる客寄せ」ではなく、ゲストが演じるキャラクターの内容も高く評価された。

 また、ドラマでは日本同様アメリカでも永遠のテーマである、「男女の友情が成り立つか」を取り合えているのも大きな特徴となっている。


 アメリカでは、「男女の友情は成り立たない」という考えが絶対数を占めるという。短期間なら成り立つかもしれないが、異性愛者であれば、どうしても「異性としてみてしまう」瞬間が出てきてしまい、性的な目で見てしまうから、というのがその理由。友情を肉体関係に持ち込んでしまうことが多いため、長期に渡る男女の友情は成り立たないのだというのだ。

 『フレンズ』では、この微妙な「男女間の友情」という部分にも触れており、恋愛感情が生まれるたびに、ギクシャクする様子、6人のバランスが崩れ「仲良しグループ」に危機が訪れる様子なども描写しており、「魅力的な男と女なのだから、こんなことも起きるだろう」というリアルさを演出。身体の関係を持ってしまっても、恋愛関係を結んだ過去があっても、「それだからこそ」理解しあえる友人になれるのだ、「別に気にしなくても、いいじゃないか」と提案し、世間はこれを歓迎した。

 どんなことが起こっても「相手の意見を尊重し、許し」、いつまでも「苦楽を共にする」友人関係を保ち続けること。究極の男女の友情コメディー『フレンズ』には、アメリカ人が「あり得ない」と思いながらも求め続ける、フレンドシップが描かれているのである。

堀川 樹里(ほりかわ・じゅり)
6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。

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最終更新:2010/01/04 19:00