サイゾーウーマン海外ヤラセに近い”リアリティー”を持った、ドラマ『The Hills』の功罪 海外 [連載]海外ドラマの向こうガワ ヤラセに近い”リアリティー”を持った、ドラマ『The Hills』の功罪 2009/12/22 11:45 海外ドラマの向こうガワ 『ヒルズ』シーズン4 DVD-BOX part1/パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン ――海外生活20年以上、見てきたドラマは数知れず。そんな本物の海外ドラマジャンキーが新旧さまざまな作品のディティールから文化論をひきずり出す! 一時期ほどではないが、アメリカTV界のリアリティー番組ブームは今現在も続いており、既存の番組に加え今年制作された新番組もヒットするなど、相変わらずの根強い人気を集めている。 「メインの出演者は素人が多いためギャラを低くおさえられる」「きちんとした脚本は必要ないので脚本家へのギャラをおさえられる」、おまけに「特殊効果や豪華セットも不必要なことがほとんど」で、とにかく制作費用が非常に安くてすむリアリティー番組。内容が低俗であったり、クオリティーがイマイチでも、オンエアーすれば高い確率で高視聴率をたたき出すため、放送局にとって確実に広告料を稼ぐことができる「お宝」番組なのである。 リアリティー番組ブームの火付け役となったのは『サバイバー』『フィア・ファクター』など、一般人が大金獲得のため身体を張るタイプや、『ジョー・ミリオネア~Love or Money』『ジ・アプレンティス』など一般人の自尊心を叩きのめすようなタイプの、いわゆる「リアリティー・コンペ番組」。これらの番組が参考にしているのは、米MTVチャンネルで1992年から放送されている『The Real World』である。 リアリティー番組のパイオニアと称される『The Real World』は、オーディションで選ばれた個性的な「見ず知らず」の若者十数名を共同生活させ、カメラで24時間密着するという番組。出身地や人種、性格などが異なるためよく大喧嘩に発展する様子が見られたり、自分の過去を激白するシーンなどが「リアル」だと若者の間で大ヒットした。 味をしめたMTVは、次に素人ではなく、有名人の私生活に長期に渡り密着するリアリティー番組を制作。今は離婚しているが、ジェシカ・シンプソンとニック・ラシェイの新婚生活を撮影した『ニューリーウェッズ』(2003~2005)、デイヴ・ナヴァロ&カルメン・エレクトラの結婚式に向けての日常を撮影した『Til Death Do Us Part』(2004)、伝説的ロックミュージシャン、オジー・オズボーン・ファミリーのハチャメチャな日常生活を撮影した『オズボーンズ』(2002~)など、制作した番組全てが高視聴率をマークしている。 これを見習った米FOXネットワークは、レッドカーペット常連者だったパリス・ヒルトンと、彼女の幼馴染で大親友だったニコール・リッチーのハチャメチャ・ドキュメンタリータッチのリアリティー番組『The Simple Life』を制作。番組は世界的に大ヒットし「セレブ密着リアリティー番組の中でも、若いセレブをターゲットにすると何倍もオイシイ」ことを世に知らしめた。 ■リアリティードラマの出演者は番組の意図を読むことがすべて ミーシャ・バートン主演のドラマ『The OC』が大ブレイクしていた2004年9月。『The OC』の舞台となり、全米から注目されるようになった超高級住宅街カリフォルニア州オレンジ郡のダナ・ポイント・ハーバーに面する沿岸都市、ラグナ・ビーチに実際に住む「リッチな」地元高校生の生活を追ったリアリティー・ドラマシリーズ『ラグナ・ビーチ』が米MTVチャンネルでスタートした。番組は放送開始と同時に高視聴率をマーク。リアルな『The OC』として注目され、ティーンたちは同世代だが「住む世界が異なる」セレブな登場人物たちのファッションや口癖を真似するようになった。 リアリティー・ドラマシリーズとは、出演者は自分自身として登場し、彼らの思うままに行動したり発言したりするが、彼らを取り巻く環境や、出来事などをプロデューサーが事前に用意する、というスタイルで制作した作品のこと。カメラの回っていないところで、プロデューサーが「面白い」と思うやり取りがあれば、もう一度カメラの前で再現することもある。ヤラセとは少し異なるが、頭や要領がよくなければ、とても息が続かないジャンルのドラマシリーズなのである。 『ラグナ・ビーチ』では、数多くの若く、美しく、リッチな高校生が登場したが、中でも美しく、頭もよく、個性的なファッションでリッチな青春を謳歌するローレン・コンラッドがティーンの間で人気を集め、カリスマとして崇められるようになった。「今、このシーンで」製作スタッフが何を求めているのか瞬時に理解でき、全ての面において「そつがない」ローレンは、プロデューサーや放送局の「お気に入り」となり、視聴者の強い要望を反映する形で、高校卒業後の彼女の新生活に焦点を当てたスピンオフ制作が決定。 『The Hills』というタイトルがつけられたこのスピンオフは、2006年5月ローレンがロサンゼルスへ移住すると共にスタート。友人らとマンションをシェアしながら、ティーン・ヴォーグ誌のインターンとして働くローレンの赤裸々な日常生活を描いた同番組は、数あるリアリティー・ドラマシリーズの中でも「濃い内容」だと高く評価され、社会現象にもなった。 仕事や愛、友情など全てにおいて真剣に取り組む姿が視聴者を虜にした『The Hills』。シーズンを重ねるごとに舞台裏では人間関係がギクシャクし、その裏話はタブロイド誌の絶好のネタとなり、皮肉にも「ゴシップ好き」な新たな層の視聴者獲得に貢献した。日本でも11月27日にリリースされたシーズン4では、友情関係を試されるシーンや、彼に翻弄されるシーンなどの裏話がゴシップされるなど、ローレンを取り巻く登場人物も知名度をグングンと上げ、次のキャリアへのステップアップとなったのである。 ローレン自身も、リアリティー・スターだけに留まらず、ファッション・ブランドを立ち上げ、デザイナーとしても活躍。作家としてもデビューするなど大成功を収めており、番組降板後の彼女のサクセス・ストーリーもさらなる話題を呼んでいる。 リアリティー番組の主人公たちは、放送終了後はあっという間に忘れ去られることが多い。また、今年は「欲を出したり勘違いをした」リアリティー番組の出演者たちによる事件が立て続けに起こり、世間に大きな衝撃を与えた。スポットライトを浴びても「ビジネス」と割り切り、番組を踏み台にして大きく羽ばたくことができるのは、『The Hills』のローレンのように生まれつき裕福で、それほど貪欲でもなく、なおかつスターとしての素質と要領の良さを兼ね備えた人物なのではないだろうか。 ローレンのしたたかな言動を学べる『The Hills』は、女性のサクセス・ハウツー番組といっても過言ではない、必見リアリティー・ドラマシリーズなのである。 堀川 樹里(ほりかわ・じゅり) 6歳で『空飛ぶ鉄腕美女ワンダーウーマン』にハマった筋金入りの海外ドラマ・ジャンキー。現在、フリーランスライターとして海外ドラマを中心に海外エンターテイメントに関する記事を公式サイトや雑誌等で執筆、翻訳。海外在住歴20年以上、豪州→中東→東南アジア→米国を経て現在台湾在住。 『ヒルズ シーズン4 DVD-BOX part1』 あっちとくっついたり、こっちとくっつりたり、大忙しです。 【バックナンバー】 ・“冤罪大国”アメリカの不安感をドラマ化した『プリズン・ブレイク』 ・日米の個人主義、家族崩壊に立ち向かった『ブラザーズ&シスターズ』 ・摂食障害まで!? 『愉快なシーバー家』の知られざる制作秘話 ・手厳しいアメリカ・メディアも大絶賛! 20年に1本の名作『マッドメン』 ・“儲かる”と”面白い”を両立させた、『ゴシップガール』の人気の秘密は? ・“ヒーロー”を探し求める米国人を充足させた『HEROES』の世界観 ・苦い思い出が故!? 『ヴェロニカ・マーズ』がアメリカでウケる理由とは ・エミー賞から見る、次のブレイク海外ドラマはコレだ! ・『Dr.HOUSE』に見る、イギリス人役者のハリウッドでの成功例 ・アメリカのヒスパニック社会が生み出した、『アグリー・ベティ』という動き ・『アルフ』の魅力は声優と、地球に向けられた優しいまなざし!? ・出演者もカミングアウト! レズビアンが作り出す”Lの世界”のリアル ・現代版『ビバヒル』はセレブと貧困の格差を描く『The OC』 ・全米のティーンが熱狂する『ハンナ・モンタナ』に見るリアル・アイドル像 ・見ていてじれったい! 王道ラブストーリーの『グレイズ・アナトミー』 ・サラ・コナーが21世紀の”強い女性”を体現した、TV版『ターミネーター』 ・最終話が衝撃的!? ”母親不在”を乗り越えた『フルハウス』の魅力とは 最終更新:2010/01/04 13:25 次の記事 西山茉希が突然の卒業宣言! これからの「CanCam」はどうなる? >