プウ美ねえさんのエプロンメモ

【プウ美ねえさんのお悩み相談】二浪の息子が大学に出願せず……祖父母への報告に困っています

2024/02/29 15:00
熊田プウ助(マンガ家)

家族関係、恋愛、夫婦関係、仕事、結婚、介護、人生……サイ女読者のお悩みに“プウ美ねえさん”こと熊田プウ助が、いつもそばに置いておきたい“エプロンメモ”とともに回答します。

目次

今回のお悩み
プウ美ねえさんの回答
今月のエプロンメモ

熊田プウ助によるイラスト画像
(C)熊田プウ助

<今回のお悩み>
「わたしは、子どもには失敗や苦労をする権利があると思っています」

 プウ美お姉さん、こんにちは。お姉さんのことが大好きです。その気持ちをつづると長くなるので、端的に相談させていただきます。

 高校卒業後二浪していた息子が、勉強もせず、今年はなんと出願しませんでした。名門大学にこだわって現役時も一浪時も合格した大学への進学を拒み続け、「行きたくない大学を受けても仕方ない(行きたい大学に合格する努力はあきらめた)」という本人の決断です。カッコ内はわたし(母親)の推察です。

 そのことはいいのですが(特にやりたいこともないのに「名門大卒になって大企業に勤めて楽をして生きたい」くらいの志望動機だったので。楽じゃねーよ)、困っているのは祖父母(わたしの両親)への報告です。


 初孫である息子に大いに期待し、援助を惜しまず、合格守りを送ってくれました。

 特にわたしと実母との関係の話になりますが、実母は過保護過干渉ぎみながら優しい賢母で、とにかくわたしに幸せになってほしいという気持ちが強く、その幸せは彼女が決めたものでした。理想の娘とは違う姿があるなら「知りたくない」一択です。そのため、わたしは悩みや困りごとを母に話すことはできません。

 息子が大学進学しなさそうなことに、わたしはまったく困ってはいませんが、そのことを両親には隠しています(浪人中も全然勉強していないことや合格可能性が皆無なことはあえて伝えませんでした)。このご時世に大学進学せず困るのは息子で「自分で決めたい」と言っています。無理やり(どうやって?)大学に入学させて、進級や卒業、就職の心配などしたくありません。

 母にさまざまなことを禁止、強制されてきた(感謝していることもありますが)わたしは、子どもには失敗や苦労をする権利があると思っています。

 例えば、わたしは親が気に入らない男の子との交際や親の嗜好に合わない服装を禁止されましたが、親元を離れて初めて男で失敗し、服装にいたっては今でも何を着たらいいかわかりません。親のために子どもがいるのではなく、子どものために親がいるのだから、好きなようにしてもらって、困ったら助けてあげたいと、わたしは自分の子どもに思っています。親になってみて、自分の親がわたしの失敗や苦労を許さず、ありのままのわたしを受け入れないことがとても悲しいです。ですが、今は離れていますし、親が心配するようなことは耳に入れないようにしてきました。親も80歳近く、今さらショックを与えたり傷つけたくありません(めんどくさいし)。


 しかし、大学受験の発表の時期になれば、さすがに連絡をしないわけにもいきません。

 息子にはアホほど教育費をかけてしまいましたが、それは親が(よかれと思って)したことです。自分で決めたいというなら、20歳で少し遠回りや寄り道をしてもいいと思います。

 ただ、それを自分の親にわかってもらう自信はなく、説明をすれば、わたしが親に対して抱いている「自分の人生で心から満足している選択はすべて親に反対されたこと(大学進学、就職、結婚)ばかりだった。そういう親になりたくない」という気持ちが伝わってしまいます。逆上するでしょう。母は、子どもを自分のモノだと思っているのです。

 母は、わたしを「かわいそう」がることも大好きで異常にはりきるので、「息子の気持ちがわからない、お母さーんどうすればいいのオロオロオロ」などと寝込んだり、発狂したふりをしようか。息子は頑張っていたが入試直前に新型コロナウイルスにかかりボロボロに、今はうつ病を発症して希死念慮があるから、そっとしておいてほしいと嘘をつこうか。聞いたこともない海外の大学に留学することにしてワーホリにでも出そうか(これは詐欺がすぎる)。

 親を傷つけたくないけど、嘘をつくのもめんどくさいし嫌な気持ち。かといって、上記のような親や子育てに関する考えを表明すると、親の子育てを否定することになります。ちなみに、母は専業主婦で、わたしが出産後も働くのは夫の甲斐性がないせいだと嘆くので、安心してもらいたくて、自分が働くことが好きだし夫も好きで幸せだと伝えたところ、大惨事になりました。優秀なのに選択肢がなかった母の主婦としての誇りを傷つけてしまったのです。今回も同じことが起こりそうです。

 新型コロナウイルスが流行したとき「もし感染しても教えないで。何もしてあげられなくてつらいから」と言った母の望みは、おそらく嘘をついてもらうことかなとは思いますが、そのことがばかばかしく悲しいです。孫の大学合格でなく、孫の受験結果がどうでも、彼はいい子だから大丈夫と信じてほしかった。大卒でないわたしの夫をののしり続けた実母に、息子が大学受験しないことをどう報告すればいいか見当もつきません。

 息子に聞いたところ「そっちの問題でしょ、適当に言っておいて」とのことでした。祖父母を安心させられるようなビジョンはないようです。どうぞよろしくお願いします。
(ピカさん、50歳)

プウ美ねえさんの回答

 ご家族の気持ちに配慮しつつ、上手に心の距離もとれていますよ。自分で決めたいと言える息子さんもたのもしいですね。周囲のいいなりでなく進路をきめる様子は未来を感じてまぶしいです。自分で納得して選んでいくことこそが結局は堅実で、健康な歩み方だと、年をとるとしみじみ感じます。

 息子さんからしたら「祖母の言動に母が悩んでる」はたしかに他人事です。けれどそろそろオトナの配慮も見せてほしい年頃ですね。ここはひとつ本人からおばあちゃんに電話をかけさせ、「ボクは大丈夫だよ~今度一緒にゴハンでも行こうね~」などと報告してもらうのはどうでしょう。で、最後にあなたから「私たち皆元気で問題ないから♪」と明るく言ってガチャ切りを……。お年を召すと他人への力が抜けるパターンもありますから試してもよいかと思います。そこまでの冒険がむずかしければ、最後の一言は「彼が納得して決めたことだから、しばらくそっとしてあげてね」という深刻風お芝居でもよいかもしれません。他人を管理したがるひとはそれでかえってハリキる危険もありますが、離れて暮らしているのなら大丈夫でしょう。

 子離れできない老親とつきあうコツは、多めのホメや肯定です(うわっつらの優しさも立派な愛情)。「お母さんには大事に育ててもらった」「好きな人との結婚を(結果的に)認めてくれて感謝してる」などのヨイショをするうちに、だんだん相手も寛容な演技で乗ってくれることもあります。事実や本当の気持ちを伝えてもわかってくれるどころか余計頑固になったりして、おっしゃるように面倒なだけです。機嫌をとって余計な口出しを封じましょう。

今月のエプロンメモ

過干渉ぎみな親がいるのは大変なことですが、もしかしたらそのおかげで、他人とのバランス感覚が養われたのではないでしょうか。あなたなら心の中で「私の問題じゃないも~ん」と開き直っても、大丈夫だと思います。息子さんの進路も、お母様の心配したがりも、大人が自分で決めたことです。

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熊田プウ助(マンガ家)

熊田プウ助(マンガ家)

1969年生まれ、ゲイ漫画家。『ホモ漫画家、ストリッパーになる』(実業之日本社)、『世界一周ホモのたび 狂』(ぶんか社)など著書多数。

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X:@kumadapoohsuke

最終更新:2024/03/22 12:27
相談者さんのとても真面目で優しい人柄が伝わってきたよ