中学受験で最難関校合格! 鉄緑会の勧誘をスルー、ゲーム三昧になった息子を「ひたすら待った」6年間
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
目次
・中学受験で、鉄緑会の指定校に合格
・最難関校で成績は「おそらく、どん底」
・浪人生活で息子が変わった
・親が子どもにできることとは?
中学受験で、鉄緑会の指定校に合格した息子
ニュースになるような大きな混乱もなく、本年度の中学受験が無事に終了した。長きにわたる塾通いから解放された子どもたちは、ホッと一息ついているところだろうが、そこは「生き馬の目を抜く」塾業界。「大切なお客様を逃がしてはならじ」と、すでにあの手この手で新中1生を勧誘しているのだ。
一例を出すならば、東大受験専門塾である鉄緑会。超難関中学の合格発表や入学ガイダンス時に「合格おめでとう 次は東大!!」と書かれたチラシを手渡すことで有名だ。それは、もらう側からすると、一種のステータスではある。なぜならば、鉄緑会「指定校」の15校の生徒たちは、中1の4月期に限り、無試験での入塾が可能だからだ。よって「とりあえず席を確保」という目的で、入学前の段階で入塾を決める子は少なくない。
この指定校の一つに合格した子を持つ成美さん(仮名)は、当時を振り返りながらこう言った。
「息子の大悟(仮名)はのんびりした子です。『第一志望校に何が何でも合格!』という気持ちは、どちらかといえば私にありまして、それで、受験中は大悟の横にピッタリと張りついて勉強を見ていました。あまりに大変な毎日でしたので、合格した時は私の頑張りが報われた気がして、すごくうれしかったんです。でも、私はずっと、その瞬間から子離れすると決めていました」
大悟君も鉄緑会のチラシはもらったそうだが、親子でスルー。成美さんいわく「もう伴走はおしまい。塾に行きたいならば、自分のタイミングで行って!」という思いしかなく、大悟君にも、そう宣言したとのこと。成美さんは、大悟君が大学受験を意識した時に、自分に合った塾に行けばよいと思っていたそうだ。
「成績もおそらく、どん底」最難関校入学も一切勉強せず
もっとも、最難関校に入るくらいの実力を持つ子どもたちは、「中高一貫校に入学したら、勉強とも塾ともおさらば」とは考えてもいない。中高のどこかの段階で塾や予備校に通うことは当たり前で、科目によって違う塾や予備校を利用している。要は、学校の勉強を疎かにはせず、部活にも打ち込み、さらには塾に行くことも負担と感じない――そういう生徒のほうが、むしろ普通ということだろう。
「大悟のサピックス(SAPIX小学部:大手中学受験塾)時代の友人たちは、合格発表後、すぐに鉄緑会に入ったと聞きました。まったく焦りがなかったとはいわないですが、結局、当時はどの塾にも入りませんでしたね。私には、『中学生になるのだから、何でも自分でやってくれ!』って思いが強かったですし、大悟は大悟で『中学に入ったらやるから』と言ったきり、遊び倒して4月を迎えましたね」
ところが、入学後も大悟君はゲーム三昧。成美さんがスマホ中毒かと疑うほど、勉強は一切せず。成美さんは「成績もおそらく、どん底ではないか」と疑っていたという。
この「おそらく」というのは、大らかな校風の大悟君の学校では、成績が明示されないからだ。教科別に各評定の人数が出るだけなので、おおよその立ち位置しかわからないのだという。
「個人面談の時に、先生に恐る恐る聞いてみたんですが、『本人次第ですから!』というお答えしかいただけず。まあ、それもそうだなぁ……と思いました。よく言われるように、馬を水飲み場に連れて行くことはできるけど、水を飲ませることはできませんものね」
しかも当時、成美さんは管理職に昇進したばかり。仕事に集中しなくてはならず、「大悟には『中学で放校にだけはならないように!』とだけ言って、基本、ほったらかしにしていた」という。
「万が一、進級基準に引っかかったら、学校のほうから何か言ってくるだろうと思っていましたが、幸い、何も言われず、そのまま、高校へ上がりました。結局、中高はZ会の通信添削くらいしかやっていなかったんじゃないですかね?」
大悟君の学校は、高校になると実力試験なるものが始まり、おおよその順位がわかるシステムらしいのだが、成美さんによると「先生の趣味全開の問題」が出題されるため、「それが、実際の大学受験にどうつながるのかは謎」だという。
そのうち「成績を見ても、少なくとも上位層ではないくらいしか理解できなかったので、大悟本人が外部の模試で撃沈しない限りは、受験勉強はしないだろうな」と達観したのだそうだ。
最難関校で勉強をしなかった息子が変わった“浪人時代”
その後、大悟君は熱中していた部活を引退。成美さんが「どうするのかな?」と思っていたところ、大悟君のほうから予備校に行きたいという打診があったそうだ。
「『そろそろ勉強しようかなって思ってる』と言われたんですが、『高3になって? おせーよ!』と(笑)。でも口には出さず、気持ちよく行っていただきました! それで、現役の時は、玉砕です。出願した大学はすべて落ちましたね。大悟が『やっぱ、ゲームをやめられなかったのが敗因だな』って言ったんで、それがわかっただけでも、進歩だな、と。なにせのんびり屋だから仕方ないなと思いましたね」
成美さんの目から見て、大悟君が変わったなと思ったのは浪人生活に入ってからだそうだ。
「まあ、よく寝ましたね。予備校の先生の方針らしいんですが、『睡眠時間が一番大事だから、削るな!』って言われたとかで、本当に規則正しく寝てました(笑)。今まで、家では夜中もゲームしてましたから。真面目に勉強していることよりも、ゲームもスマホも封印して、自分で生活リズムを整えたことのほうに感心していました」
そんな大悟君はもうまもなく、東大の第2次学力試験に挑戦することになるだろう。
親ができるのは「のんびりと待つことだけ」
成美さんは笑顔で、今の気持ちを教えてくれた。
「もちろん合格してほしいですが、落ちたら落ちたで仕方ないです。来年も頑張るのか、受かっている私大に行くのかも、本人が決めるしかないですから。まあ、ウチも結果が出ていないので、人様に物申すような立場じゃないですが、中学受験をなさっている親御さんたちに、アドバイスをお伝えするならば、やっぱり、中学以降は『本人次第』ということですかね」
成美さんは、中学生になった子どもは、小学生の時とは違い、親の言うことを素直に聞く耳は持っていないと実感しているそうだ。
「親ができるのは、ある程度の環境を整えること。そして、その後、本人が動き出すまで、のんびりと待つことだけなんじゃないかと思います。スイッチは親に言われて押すよりも、本人が押したほうがいいような気がするんです。あとで子どもに文句を言われても困りますし(笑)」
親子の受験と呼ばれる中学受験では、親が子どもに伴走するのが普通。それゆえ、一般的には、中学からいきなり手を離すと、子どもが迷子になるので危険という説が根強く、成美さんのように「竹を割った」ように子離れできる人は稀かもしれない。今の親は、それほどまでに「ひたすら待つ」ことが苦手だからだ。
しかし成美さんのように、親が環境だけを整えて、あとは見守ってくれていたとしたら……大学の合否関係なく、子ども自身が自分の意志で己の道を生きているという実感が持てるのではないか。“中学受験のその後”を考えると、それも大事な子育ての一環だと私は思う。