ハリセンボン退所は粛清なのか? 吉本闇営業騒動に考える日本芸能界のひずみ
そして、同番組サブ司会の春菜も、加藤と同じ道をたどることに。彼女は同番組内で「芸人はお互い契約内容に同意していない。口頭でも聞いたことがないですし、ギャラの取り分とかほかの部分に関しても聞いた覚えがない」と同社のルーズな体質を指摘。その後、エージェント契約に切り替え、このたびそれを終了して、別事務所に移籍する形となったわけだ。
闇営業問題を起こした入江、宮迫、亮、そこから会社の在り方に物申した加藤と春菜。コトが起きてから4年で、一連の騒動の主たる登場人物全員が吉本からいなくなった。
もちろん偶然である可能性はいなめないし、春菜がインスタグラムで書いたように「吉本興業の方々もがんばれ!と背中を押してくださいました」と好意的に送り出してくれたのかもしれない。しかし、一般論で言うのなら、テレビで公然と自分の会社や上層部を批判した“社員”に居場所がなくなるのは当たり前ではないだろうか。
「だから、会社や上層部に文句など言うべきではない」と言いたいのではない。事務所とタレントの間で権力差がありすぎるという構造の中では、正直者や志を持った人が潰されてしまい、結局、業界の浄化につながらないのではないかというのが私の考えだ。
故・ジャニー喜多川氏による性加害がなぜ起きたのか、なぜ周囲は放置・隠匿していたのかを考えると、同氏が絶対的な権力を握っていたからに尽きるだろう。日本では、所属事務所はタレントの発掘、育成、売り込みを一手に引き受ける。この方法だと、スターになった場合、育ててもらった恩があるために事務所から抜けられないということが起きかねないし、テレビ局もスターを有する事務所のいいなりになってしまう可能性がある。
一方、利益相反を嫌うアメリカでは、タレントは仕事を取ってきてくれるエージェント会社に所属し、マネジャーは自分で用意する。大物と呼ばれる人たちも仕事を得るためにオーディションを受けるのは当たり前で、日本のような“抱き合わせ”出演はまずないという。どちらがタレントのため、エンタメ界のためになるかは、言わずもがなだろう。
今年は旧ジャニーズ事務所の問題が世間を騒がせたが、考えてみると、19年の闇営業問題の頃から、芸能界のひずみみたいなものが如実になってきたのではないか。アメリカのように権力を分散させる制度を取り入れるべきだと個人的には思うが、新しいことを始めようとすると抵抗する人がいるのが世の常。そう簡単にはいかないだろう。
だからこそ、春菜のような闇営業問題で吉本を離れた芸人たちには、ぜひ頑張ってほしい。これは粛清なのか、それとも「タレントは大手事務所を辞めても大丈夫」という芸能界のターニングポイントになるのか――それを決めるのは春菜の今後の頑張りにかかっているような気がしてならない。