私は元闇金おばさん

不動産転売のホスト風青年に踊らされた女――闇金社員が見た、その悲劇的末路

2023/12/19 16:00
るり子(ライター)

若き不動産会社社長が差し出した薬剤師の女

 定期的な売り上げが見えない不動産業者は、飲食業や風俗業と同じく、貸付禁止対象業種です。いつもなら門前払いされるレベルの話ですが、この頃は景気が良く高利資金の需要者が減っていたため、優良企業に勤めていたり、不動産名義を持つなど強めの連帯保証人を用意できた先に限って窓口を広げていました。

 つまりは、連帯保証人の収入や資産を目当てに貸し付けるわけで、主債務者である企業の業績などは関係ありません。いま思えば、このような貸付が横行したことが、空前の闇金ブームを引き起こしたように思えます。

 今回の申込人は、起業したばかりだという30代前半の森谷社長。物件持ちの薬剤師だという女性を連帯保証人に立てるので、物件購入資金を用立ててほしいというものでした。融資申し込み金額は、2300万円。その資金でY市内にある私鉄駅前のワンルームマンションを購入したいそうで、すでに客はついているから高めの金利を支払っても問題ないという話です。

「不動産ころがしに金を出すのは好きじゃないが、いろいろ勉強になるだろうから、やってみろ。で、その薬剤師と社長は、どんな関係なんだ?」
「親しい友人と聞いています」
「信用情報は?」
「本人はブラックですが、保証人は該当なしです」

 該当なしとは、貸金業者の申し込み歴すらないことを指し、連帯保証人としては最高の状態です。担保物件の買取評価は2000万円ほどしかありませんが、連帯保証人の状態が良いため、足りない分の300万円は信用融資で実行することになりました。不動産担保の分は、年18%、信用分は月6%の金利で貸し付けます。


「おそらくは愛人関係だろう。ほかの保証をさせないよう、きつく釘を刺しておけよ」

初回利払いからバブルのように消えた若社長

 契約当日。いつもお世話になっている司法書士の先生を呼んで事務所で待機していると、背が高く、ベテランホスト風の森谷社長が女優の樋口可南子さんに似た連帯保証人・後藤さんを伴って来社されました。森谷社長のことを完全に信頼しきっている様子の後藤さんは、あいさつもそこそこに、次々と差し出される書類の題目すら確認することなく署名捺印をこなしていきます。

「お2人は、どのようなご関係なんですか?」
「長年の親友といったところでしょうか。いつも仲良くさせてもらっています」

 まるで婚約会見ではにかむ芸能人のような振る舞いで、一歩間違えれば地獄行きとなる数々の債権書類に実印を押していく2人の姿は、能天気そのものといった雰囲気で愚かしく見えました。

 1カ月後。すぐに売却決済できると話していた森谷社長の目論見は外れたようで、初回の利払いから遅延する事態を引き起こします。1カ月分の金利は、新規契約時に手数料などと併せて天引きされるため、事実上、これが初回の利払いなのです。


「連絡取れたか?」
「いえ、会社と自宅、それに車(自動車電話のこと)も、全部留守電です。ポケベル(ポケットベルのこと)も鳴らしているんですが、折り返しはありません」

 連帯保証人である後藤さんの信用情報を確認すると、このひと月のあいだにサラ金4社と新規取引を始めており、直近の照会が8件も入っていました。

「初回から連絡なく飛ばすなんて、随分と舐められたもんだな。回収に入れ」

 ヤクザのごとくメンツにうるさい金田社長が、社員全員に向けて指示を出すと、あっという間に回収部隊が形成されてホワイトボードに書き出されます。