私は元闇金おばさん

闇金おばさんは見た! 急死した社長の葬儀で取り立てた「香典」を盗んだ犯人は?

2023/10/21 16:00
るり子(ライター)
香典袋と5000円札の画像
SECONDHoLEさんによるphoto ACの写真

 こんにちは、元闇金事務員、自称「元闇金おばさん」のるり子です。

 今回は、急死した債務者に対する取り立てで起こったある事件について、お話ししたいと思います。

 夕方遅く、毎日ファックスで送られてくる不渡速報に、営業部の小田さんが担当する顧客、小川プラスチック工業の名前が掲載されていました。

 情報を目にした瞬間、明らかに動揺した様子を見せた小田さんは、早速に伊東部長へ報告します。みんなで手分けをして、工場、社長の自宅と携帯電話、それに連帯保証人の電話を鳴らすよう指示されましたが、どの電話も応答しません。

 不渡発生は、2日前のこと。夜逃げする時間はもちろん、物件を他業者に占有されている可能性まであるため、現場の状況が気になります。顧客資料を持った小田さんが、一連のことを金田社長に報告すると、早速に本日の回収部隊が結成され、小田さんから状況説明を受けました。


「小川プラスチック工業が不渡です。債権は、信用で150万円。自宅兼工場は社長名義、保証人には実弟の専務が入っていますが、不動産名義はありません。現在、電話は鳴りますが、誰も応答しない状況です」
「わかった。登記書類は、オレと前口で用意しておくから、全員で現場に迎え。着いたら、すぐに状況を報告するように」

司法書士崩れで執行猶予中の社員・前口さん

 この時の営業部は、伊東部長以下、佐藤さん、藤原さん、小田さんの4人で、そのほか、数カ月前に新設された総務部の社員として司法書士崩れの前口さんが在籍していました。

 登記書類や訴訟関係書類の作成をはじめ、印鑑証明の期日管理、不動産謄本の定期閲覧、自動車や電話加入権の名義変更、人材募集、車両整備などが主な仕事で、場合によっては現場にも駆り出される便利屋のような存在です。地面師(不動産取引の詐欺師)による不動産侵奪事件に加担したことで逮捕され、司法書士資格をはく奪された前口さんは執行猶予中。民事訴訟で多額の賠償請求をされている状況にありました。

「私自身も、土地所有者に成りすましたばあさんに、まんまと騙されたんですよ。3年の執行猶予が終わって、さらに3年が経過すれば欠格期間も終わります。また司法書士になれるまで、ここで頑張りますよ」

 刑が確定した後、唯一の心配は損害賠償請求訴訟の行く末だそうで、結果によっては金田社長に助けてもらうつもりでいるようです。


 それから1時間ほど経過したところで、現着した伊東部長から連絡が入りました。いつものようにスピーカーフォンをオンにした金田社長は、登記書類を書きながら対応されます。

「現場に着きましたが、玄関扉に忌中の知らせが貼ってあって、お通夜をしています。どうやら社長が亡くなっているみたいですけど、どうしましょう?」
「故人の名前を確認したのか」
「はい、忌中の知らせで確認しました。線香の匂いも漂っています」

 書類を書く手を止めて、しばし思案した金田社長が、歌舞伎役者のような厳しい表情で言いました。

「各自、近くのコンビニでご霊前の香典袋を買って、全員で上がって焼香させてもらえ。中身は3,000円ずつでいい」
「そのあとは、いかがしましょう?」
「保証人(社長の弟)がいたら引っ張り出して、売掛と所有車の状況を聞き出せ。女房には、相続意思の確認だ。相続するなら書類を書かせて、放棄するなら家の中に人を残しておくように」
「はい、わかりました。社員も来ているはずなので、売掛を中心に聞いて、あわよくば保証させますね」

 しばらくすると、焼香を済ませて遺族と話した伊東部長から、続報が入りました。社長の死因は、心筋梗塞。居酒屋の座敷席で、酒を飲みつつ食事をしていたところ、その場で寝入ってしまい、そのまま亡くなられたそうです。

「保証人と話して、入金予定の一覧は入手できました。確実なものは80万ほどしかなかったです。クルマは10年落ち、走行18万キロのアコードで、評価は8万でした。とかし屋の井上は、高級車専門ですから、ほかをあたってみてもいいかもしれません」
「奥さんは、相続するって?」
「これから弁護士に相談するそうです。死亡時3000万円の生命保険に入っているというので、保険証券を預かる方向で話そうと思いますが、それでよろしいですか?」
「わかった。弁護士介入の後、話が変わるかもしれないから、手持ちの現金も回収しておけ」