中田敦彦、松本人志批判の“ヤな感じ”――強い者いじめに見えるワケ
私たちの心のどこかを刺激する有名人たちの発言――ライター・仁科友里がその“言葉”を深掘りします。
<今回の有名人>
「テレビとかYouTubeとか関係なく2人だけで話せばいいじゃん。連絡待ってる!」ダウンタウン・松本人志
(Twitter、5月30日)
ノーベル生理学・医学賞を受賞した京都大学iPS細胞研究所名誉所長の教授・山中伸弥氏が、自著『賢く生きるより、辛抱強いバカになれ』(飯森和夫氏との共著/朝日文庫)で、日本で優秀な研究者が育たない背景について触れていた。
要約すると、アメリカで「自分はこんな研究をやってみたい」と話した場合、周りはとりあえず「いいね、やってみなよ」と言ってくれるが、日本では先に「でも、それだと……」とダメな部分を指摘されてしまうので、研究内容が固定化されやすいという。
また、日本では「教授が絶対」という考え方が根強く、教授がいい反応を示さないと、はっきりダメと言われたわけではないのに、学生が「この実験はムダなのだ、やっても意味がないのだ」と勝手に判断して、やめてしまう傾向があるそうだ。日本で優秀な研究者が育たないのは、こういったことも影響しているのではないかと分析していた。
権威ある人の発言はすべて正しいと、深く考えずに信用してしまうのは、「権威バイアス」といわれる思い込みだが、このバイアスは日本社会のあらゆる場所に深く根付いているのではないだろうか。芸能界を見ても、大御所が何か発言すると、周囲は決まって手を叩いて大笑いするが、同じことを新人が言ったら、それほどウケないだろうと思うこともある。
なので、オリエンタルラジオ・中田敦彦が配信したYouTube動画「【松本人志への提言】審査員という権力」の発言内容はわからないでもない。中田は『M-1グランプリ』(テレビ朝日系)など、名だたる賞レースの審査員を松本が務めることで「松本さんに対して、何も物が言えない空気っていうのがすごくある」「全部のジャンルの審査委員長が松本人志さんという、とんでもない状況」「松本さんが面白いと言うか言わないかで、新人のキャリアが変わる」と、松本に権力が集中することを憂えていた。
確かにそういう部分はあるだろう。が、今回の中田のやり口は、2つの理由で、個人的にとっても“ヤな感じ”だと思った。
この“ヤな感じ”の1つ目の理由は、中田がテレビ局を悪く言わないからだ。もし松本が番組制作者やテレビ局に対し、「賞レース番組の審査員は全部俺にやらせろ! ほかの人にやらせることは許さない!」と命じ、審査員の座を独占しているのだとしたら、それこそ「権力の集中」に当たるので、松本が批判されても仕方ないだろう。
が、実際は、テレビ局に頼まれて審査員を引き受けていると考えるほうが自然である。中田がもし本気で、松本の権力独占を憂うなら、オファーをかけている番組の制作者もしくはテレビ局に「松本にばかり審査員を頼むな」と文句を言うべきだろう。それをしないのは、中田に「文句を言ってテレビ局を敵に回したくない、一時は遠ざかったけれど、やっぱりテレビには出たい」という気持ちがあるからのように思えてならない。