ドラマ俳優クロニクル

山田涼介、『王様に捧ぐ薬指』の東郷役がハマるワケ――ジャニーズ俳優としての変遷を追う

2023/05/06 18:00
成馬零一
山田涼介、『王様に捧ぐ薬指』の東郷役がハマるワケ――ジャニーズ俳優としての変遷を追う
今年30歳を迎える山田涼介(写真:サイゾーウーマン)

――ドラマにはいつも時代と生きる“俳優”がいる。『キャラクタードラマの誕生』(河出書房新社)『テレビドラマクロニクル1990→2020』(PLANETS)などの著書で知られるドラマ評論家・成馬零一氏が、“俳優”にスポットを当ててドラマをレビューする。

 火曜ドラマ(TBS系火曜夜10時枠)で放送されている『王様に捧ぐ薬指』(以下、『王様』)は、ウェディングプランナーの羽田綾華(橋本環奈)が、新田ホールディングスの取締役で結婚式場ラ・ブランシュの社長・新田東郷(山田涼介)と偽りの夫婦を演じるラブコメディだ。

 山田が演じる東郷は、完璧な容姿と家柄を持つドSの御曹司で、周りからは「キング」と呼ばれている。綾華と偽装結婚したのも、“美男美女のセレブカップル”を演じることで会社の広告塔になるためだったが、次第に2人は心を通わせるようになっていく。

 本作が放送されている火曜ドラマは、女性視聴者の注目を集める人気枠で、ここに主要キャストとして出演することは若手俳優にとって大きなステータス。主演の橋本はもちろんのこと、相手役の山田にとっても『王様』に出演することが、俳優としての大きな転機となるに違いないだろう。

 それにしても東郷の設定は華やかすぎる。漫画やアニメならともかく、実写で日本人が演じるとどこかで無理が生じるものなのだ。しかし、山田が演じる東郷には、まったく違和感がない。


 東郷が面白いのは完璧な外見と肩書を持ちながらも、自分の境遇に対して、どこか不満を抱いていることが見え隠れするところだ。同時に傲慢で冷たい男に見えるが、節々で綾華を心配する姿も描かれている。

 また、態度こそ横柄に映る時が多いのだが、自身の私利私欲のために権力を行使することはなく、むしろ会社を立て直そうと奮闘しており、隠そうとしても隠しきれない人の良さがわかる。

 完璧な存在で悩みなどなさそうに見えるものの、複雑な内面を抱えている東郷のような男を山田が演じると妙な説得力が生まれる。それは、演じている役の向こう側にアイドル・山田涼介の姿が透けて見えるからだろう。

山田涼介は“可愛い”を通過して“キング”へと成長

 山田は2004年、11歳の時にジャニーズ事務所に入所。07年にHey! Say! JUMPとしてCDデビュー。俳優としては06年のドラマ『探偵学園Q』(日本テレビ系)でデビューし、その後『左目探偵EYE』(同・10年)で連続ドラマ単独初主演を果たす。そして、KinKi Kids・堂本剛らジャニーズ事務所の先輩たちが主演を務めてきた『金田一少年の事件簿』(同)のリブート作『金田一少年の事件簿N(neo)』(同・14年)で主演を務めた。

 俳優として評価されているジャニーズアイドルには、大きく分けて2つの傾向がある。1つはアイドルとしてのオーラを消して、等身大の男性を演じられるタイプで、堂本剛、嵐・二宮和也、生田斗真、風間俊介などがこのタイプだ。


 もう1つは、アイドル性を生かして華やかな王子様を演じるタイプ。KinKi Kids・堂本光一、滝沢秀明(18年末にタレント業を引退)、嵐・松本潤などがこのタイプで、山田は言うまでもなく後者だ。だからこそ名家の御曹司のような、圧倒的な存在を演じるとハマる。

 山田は『カインとアベル』(フジテレビ系・16年)や『もみ消して冬~わが家の問題なかったことに~』(日本テレビ系・18年)といった作品で、育ちのいいエリートの王子様的な青年を演じてきた。美貌も財産も持っている恵まれた王子様は、そのまま人々に幸せを振りまくジャニーズアイドルに読み替えることができる。

 そんな王子様として生きてきた山田の人生と重なる部分が多かったドラマが、昨年放送された『俺の可愛いはもうすぐ消費期限!?』(テレビ朝日系、以下『俺かわ』)だ。

 『俺かわ』で山田が演じたのは、自分が可愛いことに自覚的な29歳の青年・丸谷康介。本作は“可愛い”バイアスを武器にすることでビール会社の営業として高い評価を得てきた康介が、30年後の自分と名乗るおっさん(古田新太)から、もうすぐ「可愛い」の消費期限を迎えると言われて焦って足掻く姿を描いたコメディ。

 30歳を前にして“可愛い”という魔法を自分は失うのではないかという康介の不安を、当時オンエア中に29歳になったアイドルの山田に演じさせる本作の設定を知った時は、随分、意地悪な作品だと感じた。だが、ドラマから受ける印象は、そんな単純なものではなかった。

 康介は幼少期に、自分の成績が普通で突出した個性がないことに気づき、“可愛い”という外見を武器に生きていくしかないと悟る。逆に言うと、自分が“可愛い”だけの男であることに常に自覚的で、だからこそ“可愛い”だけだと思われないように、努力を重ね、対人スキルを磨いてきた姿が劇中では描かれている。

 体裁こそラブコメだが、『俺かわ』は20代の山田の内的葛藤を描いた自己言及的なドラマであり、王子様(アイドル)を演じ続けてきた青年の心情を見事にすくい上げた作品だったと言えるだろう。

 今年の5月9日で山田は康介と同じように30歳になる。しかし『俺かわ』で“可愛い”の終わりという通過儀礼を終えた彼は『王様』で新たなステージに挑んでいる。『王様』で山田のアイドル性はさらなる進化を遂げ、かわいい王子様からカッコいいキング(王様)へとバージョンアップさせていくに違いない。

最終更新:2023/05/06 18:00
『俺かわ』は感慨深いドラマだった