中学受験、憧れの第1志望に連続不合格――「入試の日に初めて行った」1月校に入学した親子の話
“親子の受験”といわれる中学受験。思春期に差し掛かった子どもと親が二人三脚で挑む受験は、さまざまなすったもんだもあり、一筋縄ではいかないらしい。中学受験から見えてくる親子関係を、『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)などの著書で知られ、長年中学受験を取材し続けてきた鳥居りんこ氏がつづる。
今年も全国各地で中学受験の本番が始まった。
栄光ゼミナール調べによると、首都圏では中学受験生1人あたりの受験(出願)校数は、平均4.81校というのが昨今の状況。2月1日から本番が始まる東京・神奈川の子どもたちは、1月受験と呼ばれる千葉・埼玉の学校の入試、または地方にある寮完備の学校の東京入試を受けるケースも少なくなく、これからの数週間はハードスケジュールをこなすことになる。
東京・神奈川の受験生にとって、1月受験は、2月の本命校受験を前に“まずトライしてみる”ものであり、「入試慣れ」の意味合いを持つ。これを業界用語で「お試し受験」とも呼んでいる。つまり、本命校は別にあるので、1月に受ける学校は、合格しても入学辞退するケースが多い(もちろん、1月校に行くことになっても本望というご家庭もある)。
咲子さん(仮名)は、中学受験を経て入学した中高一貫校のS学園出身。
彼女の母校愛は強く、結婚する前から、「女の子を産んで、母校に入れたい」と本気で願っていたそうだ。念願かなって、女の子・紗良ちゃん(現中学1年生・仮名)が誕生。咲子さんは自分の夢をかなえるため、紗良ちゃんが赤ちゃんの頃から、頻繁にS学園の行事に連れて行っていたという。
当然、紗良ちゃんは母の恩師たちとも顔なじみに。それゆえ、紗良ちゃんにとっては、受験前から「S学園=自分の学校」という感覚が強く、当然のようにS学園を目指し、勉強に励んでいたと聞く。
紗良ちゃんは最終模試で、S学園の合格確率80%を出していたため、咲子さんも受験に関しては楽観視していたという。
ところが、どういう運命のいたずらか、3回チャレンジしたものの、S学園の扉は開かなかった。
ご承知のように、近年、中学受験は大変な盛況ぶりで、人気校の倍率は高くなる一方である。S学園も人気校であるため、激戦になるのは間違いない。受験に「絶対」はないのである。
「私も紗良も受験を舐めていたのかもしれません。塾の先生の『受験は水物』という言葉が身に沁みますが、正直、“まさかの不合格”にうろたえました」
紗良ちゃんは塾の勧めで、1月校を受験しており、その学校には合格。2月はS学園以外にも1校受験し、こちらも合格していた。つまり、合格した2校の中から、どちらを選択するのかを早急に迫られる事態になったのである。
「どちらに通うかを決めなければならないんですが、呆然としていた私は何も考えられなくなっていました。紗良はS学園に行くものと思い込んでいたので、ほかの学校のことはロクに調べもしなかったんです。特に1月校については何の情報も持っておらず、受験日に初めて学校を訪れたという有様で……早く決めなければならないのに、どうしていいのかわからなくなっていました」