玄関に並べられた「夫婦の遺骨」――闇金社員が走って逃げ出した“恐怖の現場”
カード割が成功して、債権回収に成功したので連帯保証人とは和解しましたが、他社に持っていかれるならと社長自宅の占有を継続したところ、その日の夜に大きな事件が起こります。
帰宅した債務者の息子さんと藤原さんが揉み合いになり警察を呼ばれ、社員2人ともが連行されてしまったのです。どうやら前日にも、取り立てにきた他業者と息子さんが派手に揉めていたらしく、警察から強行的な取り立ての即時中止を勧告されました。この業者によって事務所が荒らされていることも把握されており、重点警戒しているから事務所にも近づくなと釘を刺されます。
「強行的な取り立てを続けるのであれば代表も含めて逮捕する」
いつになく強く警告されたため、警察の本気を感じた社長は占有を諦めて、すぐに手を引きました。ギリギリのところで逮捕を免れ、翌日も無事に出社した佐藤さんが、事務所の掃除をしながら昨夜の模様を語ります。
「揉み合いになった息子、元相撲取りなんだって。ものすごく力が強くて、ちょっと押されただけで、壁まで吹っ飛ばされてさ。前の日には、業者の乗ってきたセルシオのフロントガラスを素手で叩き割っているみたいなんだけど、なかなか素手で割れるもんじゃないし、そんなの検事に送っても信用されないって不問にしたらしいんだ。両親に心中されてね、俺らのことを逆恨みしているみたいだから気をつけろって、刑事に言われたよ。本気でやられたら、きっと死ぬぞって……」
「何時に出られたんですか?」
「夜中の1時くらいまでかかったかな。危うくパクられるところだったのに、一言の労いもなくてさ。この仕事に逮捕はつきものだから仕方ないって言うんだよ。ヤクザじゃあるまいし、ほんと困っちゃうよね」
いつもならしつこく取り立てを続ける社長も、今回ばかりは太刀打ちできず、元金以外の利益を出すことはできませんでした。弱者に強く、強者に弱い。ビジネスのことを考えれば当然のことかもしれませんが、自身の逮捕を恐れて逆らうことなく警察の指示に従ったことは意外で、この件以降、社内における社長の威厳が小さくなったように思います。
自分の利益を第一に考え、現場の社員に体を張らせておきながら我が身の保身を図った事実が、社長に対する忠誠心を大きく奪ってしまったのです。
※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)