ゴミ屋敷の2階は水槽だらけ、異形の魚が悠々と泳ぎ――闇金社員が怖くなった“初現場”
飼育器具も含めて引き取ってもらえることになりましたが、その額面は2万円ほど。熱帯魚屋の店主は「成魚や中古器具は買い手が少なく、本来であれば逆に費用をいただくところだ」と話しています。アシが出るよりはマシと、正式に引き取りを依頼した佐藤さんに、店主が言いました。
「花輪さんは、どうしちゃったんですか?」
「ここだけの話ですけど、夜逃げしちゃったんですよ」
「許可なく片づけて大丈夫ですかね? 熱心に面倒をみていたし、ウチの常連さんだから心配ですよ」
「大丈夫ですよ。書類もあるし、なにかあれば我々が対応しますから」
厚手のビニール袋に水槽の水を移して、網ですくった生体を入れた店主は、スプレー缶で酸素を注入すると輪ゴムで縛って密封しました。飼育器具の搬出を終えた店主を見送り、空になった部屋の掃除をしていると、玄関扉を乱暴に叩く音が聞こえてきます。
「ヒシ(山口組のこと)の、トネ(仮名)じゃあ。お前ら誰に断って入ってんじゃあ。早よ、開けんかい!」
階段の上から玄関の様子を覗き見ると、静かな動きで玄関扉の前に陣取った2人は、顔を見合わせて外の様子をうかがっています。ドアスコープから屋外の様子を確認したいところですが、間髪入れずに扉を激しく叩いてくるので、目をあてることができません。扉がひずむほど激しく叩いてくるため、音が出るたび、ご近所の反応が気になりました。
「いないなら、壊して入るぞ。いるなら、早く開けんかい!」
仕方なくといった様子で佐藤さんが外に出ると、中に残った藤原さんは、すぐに施錠してバールを片手に身構えています。玄関先で、「(家の中に)入れろ、入れない」の押し問答が始まると、相手方の怒号が家の中まで聞こえてきました。
どうやら組織の話を出して脅迫されているようで、閑静な住宅街に不穏な言葉が響き渡っています。するとまもなく、弊社の社長をはじめ、社員のみんなが現場に到着しました。現場前の道路には、多くの車両が並び、ただならぬ空気が漂っています。
「近所迷惑になるから、中で話しましょうか」