闇金社員、初の現場は「ゴミ屋敷」! コバエが弁当にたかる臭い部屋……仏壇の位牌が消えていた
「お疲れさま。今日も頼むね」
「目立っちゃうから、大きな声出さないでよ。悪いことしにきているんだからさ」
「ごめん、ごめん。ここを開けてもらいたいんだけど、大丈夫?」
「このタイプなら、すぐ開くと思うよ。周り、注意して」
玄関前にトランクを広げ、ライト付きの独眼鏡を左目につけた鍵屋は、糸鋸の刃に似た道具で鍵穴をほじり始めます。
「開いた」
作業開始から、およそ2分。いとも簡単に扉は開かれました。一刻を争うように道具を片付けた鍵屋は、領収証と引き換えに3万円の現金を受け取ると、そそくさと帰っていきます。
車から降りて、玄関扉に看板(A3のコピー用紙に社名と電話番号が書かれたもの)を貼り出し、急いで家屋の中に入ります。すぐに戸締りをしてリビングに入ると、部屋中に下着や洋服などが散乱しており、素人目で見ても夜逃げした感じが伝わってきました。
ダイニングテーブルの上には、使用済みの食器やグラスが放置されたままで、食べ残したコンビニ弁当にコバエがたかっている有様です。雨戸(仏壇の扉のこと)が開いたままの仏壇が目に入り、ごあいさつするべく中を覗くと、位牌や仏像の姿は見当たりませんでした。
「仏様がいらっしゃらないですね」
「夜逃げ確定ですね。仏壇なんて、どうして覗くんですか?」
「知らない方のお宅だし、お邪魔するから、ごあいさつしようと思って。実家が葬儀屋なもので、お宅にあがるときは、必ずご焼香させていただくものですから、つい……」
キッチン周りを見れば、パンパンに膨らんだゴミ袋が多数積まれていて、足の踏み場もないまさにゴミ屋敷。室内の臭気は強く、すぐにも立ち去りたい気持ちになりました。
次回は、この債権回収の現場について、引き続きつづっていきたいと思います。
※本記事は、事実を元に再構成しています
(著=るり子、監修=伊東ゆう)