芸能
[連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』
韓国、“政治的な扇動”が問題に……『キングメーカー 大統領を作った男』に見る選挙と社会の分断
2022/08/12 19:00
KCIAの取り調べを受けた直後、オム・チャンロクは忽然と姿を消した。その背景にはいくつかの説があるが、かねてからオム・チャンロクの手腕を買っていたKCIAが、莫大な礼金を払って彼をパク・チョンヒ側に寝返らせたというのが定説になっている。また、いずれは自分も政治の表舞台へと野心を抱いていたオム・チャンロクが、比例代表の優先順位と幹事長のポストをキム・デジュンに要求して断られ、爆破事件の犯人と疑われたのも重なって寝返ったという説もある。
いずれにしても、オム・チャンロクを欠いた状態での選挙戦は、急速に流れを変えていく。映画の終盤で描かれる、パク・チョンヒの出身地「慶尚道(キョンサンド)」と、キム・デジュンの出身地「全羅道(チョルラド)」の「地域間対決」というカルラチギが、一気に選挙戦の前面に現れたのだ。
1980年に起こった「光州事件」で、なぜ光州が狙われたのかについて、その背景には光州が属する全羅道への根強い地域差別があったことは、以前のコラム『タクシー運転手~約束は海を越えて』で書いた通りである。私自身、「光州からの転校生と付き合ってはいけない」と親に叱られたことがあり、地域差別は国民に深く浸透していた。その決定的な要因となったのが、まさに71年の大統領選挙戦で煽られた「地域間対決」だ。
オム・チャンロクがキム・デジュンと決別し、陣営から姿を消した直後にカルラチギが現れたが、これがオム・チャンロクのアイデアだったかどうかは定かではない。だが、彼が得意としたカルラチギが選挙に使われ、それによってキム・デジュンを「アカ」とするネガティブキャンペーンがさらに膨れ上がることとなったのは事実である。