滝沢カレンの文章は、なぜ読む人の心に響く? プロの校正者が「文章センスはずば抜けている」と評価
さて今回は、結婚報告文の冒頭に注目しましたが、最後のパートの一文があまりにも滝沢さんらしかったので、少しだけ言及したいと思います。
お仕事はこれからも楽しみながらも
ひとつひとつ、1秒1秒、私の全ての力と思いで
本気全力、頑張らせていただきますので、
皆さまよろしくお願いいたします。
この一文を直すと「お仕事はこれからも楽しみながら、ひとつひとつ、1分1秒、全身全霊で頑張らせていただきますので、皆さま、今後ともよろしくお願いいたします。」になります。「私の全ての力と思いで本気全力」の部分は、「全身全霊」で表現でき、これは、おそらくは滝沢さんも知っている四字熟語だと思います。
しかし、それが自分の思いを表現するのに最適なのかについて、滝沢さんは熟考したのではないでしょうか。そもそも結婚の報告などは、定型文に少しオリジナルな言い回しを加える程度で済ませるものですが、それを避けて通る。あらかじめ用意されたものを流用してよいものかといったん立ち止まったのでしょう。
自分の言葉ではない借り物で、果たして自分の思いを正確に伝えることができるのかと疑問を持ち、誠実に言葉と向き合った結果がカレン語となって表出する。こういった真摯な態度が読み手に伝わることで、好感を持たれていると思うのです。
少し話はそれますが、今回、こうして滝沢さんの文章と向き合う中、いち校正・校閲者としてハッとさせられたことがあります。まだ新米の頃、先輩に常に「全ての記憶はうろ覚え」と叩き込まれました。そのスタンスで校正・校閲作業にあたるべき、つまり時間が許す限り辞書を引けということなのですが、裏を返せば「忘却スキル」も必要ということになります。おかげさまで、そういった基本姿勢を想起できました。
ともあれ語彙が思いのほか豊富で、カレン語の難解さの根源でもあるのですが、遠回しに書く婉曲表現が少なめなのが滝沢さんの文章です。実はそれだけでも文章センスはずば抜けているといえます。
A氏
フリーの校正・校閲者。ウェブ媒体、紙媒体問わず、 日々さまざまな文章の校正・校閲を行っている。