サイゾーウーマン芸能韓流『ベイビー・ブローカー』鑑賞前に知りたいポイント 芸能 [連載]崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 是枝裕和監督『ベイビー・ブローカー』、鑑賞前に知りたい韓国「ベイビーボックス」の実態 2022/06/24 19:00 崔盛旭(チェ・ソンウク) 崔盛旭の『映画で学ぶ、韓国近現代史』 『ベイビー・ブローカー』で是枝裕和監督が評価された点とは? (C)2022 ZIP CINEMA & CJ ENM Co., Ltd., ALL RIGHTS RESERVED 是枝はこれまでにもさまざまな作品で<家族の在り方>を描いてきた。そして彼は、『歩いても 歩いても』(08)や『海よりもまだ深く』(16)のように、血のつながった家族に潜む秘密やわだかまりを通して家族の他者性を浮かび上がらせる一方で、『誰も知らない』(04)『海街diary』(15)『万引き家族』(18)では、本来は血のつながりがない者たちが家族を形成していく過程を描き出し、疑似的な家族にこそ人間的な結びつきを見いだしてきた。『そして父になる』(13)はまさにそうしたテーマとじかに向き合った作品であり、是枝のテーマ性、作家性を世界は高く評価してきたのだ。 『ベイビー・ブローカー』においても、妻と離婚し娘とも離れて1人で暮らすサンヒョン、児童養護施設出身のドンス、赤ちゃんをベイビーボックスに預けた未婚の母ソヨン、未婚の母への憎悪を持つ刑事のスジン……と、主要な登場人物たちは誰一人、いわゆる“普通の家庭”を築いていない。 そんな彼らが、赤ん坊の幸せをそれぞれに願いながら、自らも少しずつ「新しい家族」となっていくさまからは、家族はさまざまな形で存在するものであり、血だけが家族の印であるという強迫観念から解き放たれようという、是枝の優しく力強い提言を感じられはしないだろうか。 理想化され過ぎているのではないか、見ていてこそばゆいといった意見さえも、彼らが血でつながっていないからこそ意味を持ってくると私は思う。本作は、カンヌでカトリックとプロテスタントのキリスト教統一組織による審査員によって「人間の内面を豊かに描いた作品」に贈られる「エキュメニカル審査員賞」を受賞した。その背景は、血のつながりを超えた家族の在り方を描いた普遍性が評価されたからに違いない。 大島渚はかつて、韓国という他者を鏡にして、日本という国を見つめようとしていた。『ベイビー・ブローカー』が日本でどのように見られ、韓国という鏡が日本にどのような照射をもたらすのか、楽しみに見守りたい。 崔盛旭(チェ・ソンウク) 1969年韓国生まれ。映画研究者。明治学院大学大学院で芸術学(映画専攻)博士号取得。著書に『今井正 戦時と戦後のあいだ』(クレイン)、共著に『韓国映画で学ぶ韓国社会と歴史』(キネマ旬報社)、『日本映画は生きている 第4巻 スクリーンのなかの他者』(岩波書店)など。韓国映画の魅力を、文化や社会的背景を交えながら伝える仕事に取り組んでいる。 前のページ123456 最終更新:2022/06/24 19:07 楽天 Yahoo セブンネット 赤ちゃんポストの真実 ちょっと日本のことも調べてみよう 関連記事 「同性愛は治療で治る」韓国・ユン大統領秘書の発言が炎上! 映画『私の少女』が描く「LGBTと社会」の現在地Netflix『未成年裁判』は“ほぼ実話”? モチーフになった事件と、ドラマで描かれなかった「犯行動機」のうわさ映画『野球少女』で描かれた、韓国初の女性野球選手はいま――物語とは決定的に異なる「悲しい」結末韓国映画『バッカス・レディ』4つのセリフが示す、韓国現代史の負の側面を背負う高齢売春婦の悲しすぎる人生人気の韓国映画『7番房の奇跡』、時代設定が「1997年」だった知られざる理由 次の記事 トラジャ、デビューへの切実な思い明かす >