「お父さん、助けて!」顔認証システムで捕まった万引き老女を警察が逮捕しない理由とは?
昼下がりの午後、閑散とする店内で巡回を続けていると、登録者の入店を知らせる発報がありました。メールを読む体で内容を確認すると、さまざまな情報と併せて、全身からだらしのない感じが滲みでている80歳くらいにみえる女性の全身写真が画面いっぱいに表示されています。画面表示された情報によれば、2週間ほど前に万引きをして捕まり登録された人のようで、行動確認するほかありません。不自然にならない程度の早足で店内を歩き回り、地下の食品売場で対象女性の姿を見つけて追尾を開始すると、まもなくしてウインドブレーカーを羽織った警備隊長がそばにやってきました。同じ端末を持たれているため、私自身の行動も監視されているのと変わらず、いつにも増して気の抜けない気持ちにさせられます。
「あのばあさん、改装前から何度も捕まっているんだけど、認知症の診断が出ている人で、警察に扱ってもらえないの。出て行ってもらうのはかわいそうだから、もしやったら、その場で声をかけましょう」
「わかりました。暴れたりしないですよね?」
「わからないけど、大丈夫じゃない?」
犯意を成立させることを重要視する私たちは、たとえバッグに商品を隠匿されたとしても、店内で声をかけることはありません。万引きの既遂時期についてはさまざまな法解釈がなされていますが、後のトラブルを防ぐためには、言い訳のできない状況まで犯行を見守り犯罪を成立させるのが一番なのです。しかしながら、警察から犯行を防止するよう指示がある場合は、その限りではありません。認知症の常習者を短期間にたびたび捕まえた時には、顔もわかっていることだし警察を呼んでも罪に問えない人であるから、みんなの手を煩わせることなく防止してくれと懇願されたこともありました。