野球カード欲しさに万引きを繰り返した児童……やるせない犯行動機とは?
そのまま行動を見守れば、お菓子売場に直行した少年は、ポテトチップスのコーナーで足を止めました。その場にしゃがんで、商品棚の最下部に陳列された「プロ野球チップス2021」を手に取ると、大人顔負けの悪い目で周囲を見回しています。まもなく商品に貼られているおまけのカードを剥がして、それをズボンのお尻ポケットに隠した少年は、この上ない早足で売場を離れていきました。必死に追いかけるも、足が追いつかずに見失ってしまい、どこを探しても少年の姿は見当たりません。
(おまけひとつの話だし、子どものやったことだから、あきらめて戻ろう)
おまけのカードを取られて損壊された商品を回収して店長に報告するべく、敗北感にも似た重い気分を抱えて売場に戻ると、さきほど見失ったばかりの少年が同じ場所にしゃがみこんでいました。またやると確信して、先程より見通しの良い位置から行動を注視すれば、おまけのカードを次々に剥がしています。最終的に、陳列されたほとんどの商品からカードを剥がした少年は、それを手に持って売場を離れていきました。
(ここまでされたら、きちんとしないと)
このような商品は、おまけのカードがついてなければ売れません。もはや“子どものいたずら”では済まされない事態に、失敗を取り返すべく慎重に追尾すると、店内の死角にある棚の隙間にしゃがみこんで、身を隠しながらカードを開封する瞬間が確認できました。目当てと思しきカードを尻のポケットに隠し、不要なカードと袋は棚の下に隠して店の外に出た少年が、出口脇に停められたギア付きの子ども用自転車に手をかけたところで、そっと声をかけます。
「こんにちは、お店の者です。僕、野球好きなのかな? カード取られちゃうと、みんな売れ残っちゃうから、困っちゃうのよ。ちょっとお話聞かせてもらってもいい?」
「あ、はい。ごめんなさい……」