コラム
仁科友里の「女のための有名人深読み週報」

日本社会に根付いた「弱者を笑う文化」をあぶり出す五輪――とんねるずの“事件”&太田光の“小山田擁護”に見る「間違った男らしさ」

2021/07/24 20:00
仁科友里(ライター)

 小山田発言がなされた90年代、私は大学生だった。サブカル方面に詳しいほうではなかったので断言はできないが、その時代には総じて「強者が弱者にひどいことをして笑う」風潮があったように思う。 

  爆笑問題と同世代のとんねるずが、1985年に起こした“カメラ転倒事件”をご存じだろうか。『オールナイトフジ』(フジテレビ系)に出演していた石橋貴明が移動式カメラに抱き着くと、そのまま横倒。1500万円するカメラはダメになったというエピソードだ。今だったらネット上に苦情が続出するだろうが、石橋はこの一件をのちに『石橋貴明のたいむとんねる』(2018〜20年、同フジテレビ系)で、悪びれることなく武勇伝的に語っていた。「無茶なことをやるのが男らしさ」という意識があったのではないだろうか。

 また、石橋の相方・木梨憲武は『大竹まことゴールデンラジオ!』(文化放送)に出演した際、「そういうことをどんどん望んでくれる時代だった」と、自分たちの意志というよりも、ある程度ビジネス的な感覚で意図的に「ひどいこと」をしていたと思わせる発言をしている。とんねるずだけでなく、テレビ業界に「ひどいことをされた側を笑う」構図があったのだろう。
 
 とんねるずは冠番組『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)のコント内で、高島彩ら女子アナウンサーや女性タレントに頻繁にセクハラをしていた。もちろん、テレビ内でやっていることだから、事前の打ち合わせはあるだろう。なので「不意打ちで逃れられない」といった意味での悪質さはなかったと思われる。しかしポイントは、男性が「強者」とされる世界で、「弱者」の女性を対象にセクハラをして、世間を笑わせようとしていたことだ。これもまた、「男らしさの証明」でもあったのではないだろうか。
 
 クリエイターの場合、加えて「ひどいことや悪いことをするのは、才能の証し」とみなす風潮もあったように感じている。まじめに創作活動にいそしむよりも、おかしな武勇伝を作るほうが「凡人とは違う」「才能があってすごい」という印象を手っ取り早く与えることができ、社会的な評価や地位を得やすかった記憶がある。

 今回は「間違った男らしさ」を持つ社会的強者の男性ばかり問題になったが、女性が社会的強者になり「弱者にひどいことをして笑う」場合もないとはいえない。90年代から弱者は「才能があるからしょうがない」「あの人はやんちゃだから」とひたすら許容を求められ、こうした価値観のまま国際的イベントに参加した結果が、相次ぐ辞任につながったといえるのではないか。

 オリンピックは、日本にはびこる「間違った男らしさ」や「弱者を笑う文化」をあぶり出しているように見える。唯一希望があるとすれば、SNSを通して「それはおかしい」と声を上げる人が増えていること。多くの人が生命の危険にさらされながらオリンピックをやること自体、社会的強者の考えのような気がするが、とりあえず、無事に終わることを祈るしかない。 

仁科友里(ライター)

1974年生まれ、フリーライター。2006年、自身のOL体験を元にしたエッセイ『もさ子の女たるもの』(宙出版)でデビュー。現在は、芸能人にまつわるコラムを週刊誌などで執筆中。気になるタレントは小島慶子。著書に『間違いだらけの婚活にサヨナラ!』(主婦と生活社)、『確実にモテる 世界一シンプルなホメる技術』(アスペクト)。

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最終更新:2021/07/24 20:30
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