サイゾーウーマンカルチャーインタビューのぶみ新作絵本、母はどこに怒る? カルチャー インタビュー【前編】 のぶみ新作絵本『はたらきママとほいくえんちゃん』炎上――何が働く母親を怒らせるのか? 2021/07/20 20:00 サイゾーウーマン編集部(@cyzowoman) インタビュー 母親が成熟していないというリアリティのなさも ——『はたらきママとほいくえんちゃん』ですが、批判ポイントはどこにあったと考えますか。コメントを見ると「あまりにリアリティがない」といったコメントも多いですが……。 千田 まず母親が、親として描かれていないところだと思います。親としての役割を果たしていないし、どんな状況でも常に「あたしが〇〇したい」「あたしが〇〇する」ばかり主張して、成熟していない気がします。勝手に1人で働いて、子どもが病気でも、勝手に1人で「1じかんだけ しごとしよ!」と判断し、「2じかんはん たっちゃった!」とパニックになって職場を後にし、1人で子どものように泣きじゃくり、最後は子どもに「ママ、おしごと やめちゃダメよ」と慰められるという。きわめつけは、最後の「こそだては こどもとふたりでしてるんだって おもうようになりましたよ」という一文ですが、自力で問題の解決方法を出そうとせず、子どもに慰められて解決していますよね。親として何の責任も果たしていないと思います。本来、この言葉は「子どもが育つ過程で、親である自分も変容していき、成長していく」という文脈の中で使われるものだと思いますね。 ――確かに、母親が成熟していないような描写は多いです。 千田 成熟した大人であれば、もっと別の次元で葛藤していると思います。病気の子どもを迎えに行きたいのに、すぐに会社を出られないブラック職場との板挟みにあっているなど、労働環境や社会の制度について葛藤すると思うんです。それなのにこの母親は、全部自分だけの問題として勝手にパニックになっている。これも批判されている1つの原因だと思うんですけど、のぶみ氏は、母親1人だけに自己犠牲と自責の念を背負わせすぎです。全て母親だけの問題として抱えさせ、母親だけの問題として、子どもに解決させています。 ――読んでいると、だんだん苦しくなってくるという人も多いかもしれません。 千田 先にも述べましたが、のぶみ氏が「母親は本来、子どもと一緒に家にいるべきで、働きに出るのは母親のワガママ」という前提で話を進めているからだと思いますよ。社会や家庭の問題ではなく、一個人の問題になっていますからね。自己実現のために働くことは、もちろん素晴らしいことだと思うんです。でも、そうだとしたら、自己犠牲や自責の念なんかなくして、「私が稼いだ分は、好きなように使って楽しんでやる!」という意気込みが、この母親にあってもいいんじゃないでしょうか。 少なくとも、大泣きして子どもに「ママ おしごとしていると キラキラしてようせいさんみたいに みえる」「おしごと やめちゃダメよ」と無理やり認めさせて、働くことを正当化するのは違うと思います。そもそも子どもって、そんなにものわかりはよくないし、素直でもないですよ(笑)。 ■後半はこちら のぶみ“働く母親像”炎上に考える、子どもを保育園に預けることはなぜ“罪悪感”を生むのか? 9月22日に新作絵本『はたらきママとほいくえんちゃん』(WAVE出版)を発表し、その内容が物議を醸しているのぶみ氏。前編では、社会学者で武蔵大学教授の千田有紀氏に...サイゾーウーマン2018.10.07 ※2018年10月6日初出の記事に、再編集を加えています。 千田有紀(せんだ・ゆき) 1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、 武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』(勁草書房)、『女性学/男性学』(岩波書店)、共著に『ジェンダー論をつかむ』(有斐閣)など多数。 前のページ123 最終更新:2021/07/20 20:00 Amazon はたらきママとほいくえんちゃん お父さんは「いつでも見守ってるよ」ということ!? 関連記事 のぶみの絵本は賛否両論! ほかにもある「子どもに読ませたくない」と物議醸した人気絵本「心理学ではなく新興宗教」精神科医が、人気カウンセラー・心屋仁之助氏の「娘叩く母」肯定を斬るアカチャンホンポ「お母さんを応援」パッケージ変更――「クレーマー批判」はなぜ起こる?『幸色のワンルーム』放送中止に批判の嵐……弁護士・太田啓子氏が「誘拐肯定」の意味を語る「連絡帳の自作」を保護者に指示――“時代錯誤”な小学校と“よき母になりたい”親はなぜすれ違う? 次の記事 月9、北村匠海の出番「少なすぎ」? >