コラム
『おちょやん』解説

『おちょやん』灯子は非常に「したたか」!? 実在の九重京子“目線”で見る、史実の不倫妊娠劇

2021/04/26 12:30
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

 たとえば、渋谷の浮気を「役者の女房」として認める一方、「金でなんとかなるプロの女性以外に手をださないで」「子供はヨソで作らないで」の2点は絶対に守るように渋谷に約束させることは忘れませんでした。九重は、男性操縦にかけて、浪花の比ではないくらいに達者だったことがわかります。

 看板女優だった浪花千栄子が去った後の松竹新喜劇は、一時的に低迷しますが、すぐに多くの新人スター女優を輩出。セールス面で大きな成長を遂げ、渋谷の財力は豪邸をポンと買えるまでになります。そして、浪花という長年の妻を捨てたことに対する世間の関心が低くなったと判断した約8年後、渋谷は九重と正式に結婚しています。

 こうして九重は名実ともに二代目・渋谷天外夫人、渋谷喜久恵として豪邸に君臨する存在となったのでした。

 「女優」としては浪花に負けた喜久恵夫人ですが、「女」としては浪花に勝ったといえるかもしれません。いや、「健気な女」の役を長年、演じつづけるだけの胆力を備えた喜久恵夫人、女優としても相当にすごかったのではないか、と思ってしまう逸話の数々でした。

堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

1977年、大阪府生まれ。作家・歴史エッセイスト。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業。日本・世界を問わず歴史のおもしろさを拾い上げる作風で幅広いファン層をもつ。著書に『偉人の年収』(イースト・プレス)、『眠れなくなるほど怖い世界史』(三笠書房)など。最新刊は『日本史 不適切にもほどがある話』(三笠書房)。

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最終更新:2021/04/26 19:37
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