『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』北九州連続監禁殺人事件、犯人の息子が伝えたかったこと「放送1000回SP 後編」

2021/04/19 17:21
石徹白未亜(ライター)

「DVに耐えるのは不毛だ」と伝える映像の力

 当事者やそれに近い人が感じた気持ちと同じように、自分が体験したことのない出来事を受け取るのは不可能だと思うが、それでも知ることで、相手に対する想像力は育まれる。こんなときに映像はとても雄弁だ。

 DV問題を追った回では、DV被害者の妻からの手紙と離婚届を代理人経由で受け取った加害者である夫の姿を遠くから映していた。手紙の中から離婚届を見つけた夫の手は、遠目でも「わなわなと」震え、動揺から手紙を持ったまま部屋をウロウロし続け、代理人から何度も座るように促されてもやめられない様子だった。

 夫の顔にはモザイクがかけられていたものの、その行動から、離婚届が夫にとっては「青天の霹靂」であったことが伝わり、夫が「それまで自分が妻にしてきた暴力について、全く理解していなかったこと」がよく伝わった。ここまで加害側は無自覚なのかと、DVの恐ろしさと、DVに耐えることの不毛さがよく伝わる映像だった。

 『ザ・ノンフィクション』は、ドキュメンタリー番組の中でも登場人物が自分の思いを話す割合が高い番組だと思うし、そこが魅力の一つだと思うが、私は番組のこんな「言葉がない、映像だけのシーン」も好きだ。言葉では語りきれない多くのことを伝えていると思う。

 次回は「銀座の夜は いま…2 ~菜々江ママとコロナの1年~」銀座の超高級クラブを経営する唐沢菜々江ママ、47歳。新型コロナウイルスに翻弄されながらも模索を続ける姿を昨年20年5月の放送でも伝えていた。しかし、その後1年、「夜の銀座」の状況は改善される兆しすら見えない厳しい状況が続いている。銀座の今の姿とは。


石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2021/04/19 17:21
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