『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』北九州連続監禁殺人事件、犯人の息子が伝えたかったこと「放送1000回SP 後編」

2021/04/19 17:21
石徹白未亜(ライター)

2011年を前後編の区切りとした番組側の思い

 かつて番組のホームページには「2011年の東日本大震災から、何かが変わった。その何かがこの国の行方を左右する」と記載があり、似たようなことが今回の後編のナレーションでも伝えられていた。私は宮城県出身で、震災で価値観や考え方が変わったが、震災の体験者や被災者、そうした者を家族や友人に持たない人は、価値観の本質的な部分は特に変わっていないように思う。それは自然なことだろう。当事者とそうではない人が、完全に同じように感じるなんて無理だ。

 「2011年の東日本大震災から、何かが変わった」という言葉を番組が伝え、今回の前後編の区切りも東日本大震災だったのは、番組スタッフが被災直後から被災地を何度も訪ね、被災した人たちの声を聞いてきたからこそだろう。「何かが変わったのだと伝えたい」という願いに似たものを感じる。この願いは、震災から10年たった2021年、新型コロナウイルスの蔓延により、「大きな困難により価値観、考え方が変わる」ということが、日本全国にようやく伝わったのではないかと思う。

 震災の被害が場所によりまったく違うように、新型コロナウイルスの被害も、職業によってその経済的な損失も全く違うので、さほど変化なく暮らせているように見える人がいる一方で、なぜ自分だけが、という深い絶望にある人もいる。絶望や孤独の状況にある人たちが歯を食いしばっているから社会は成立しているのだと思う。

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