『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』「放送1000回SP 前編」、目の前の一日に人間が必死に向き合う生々しさ

2021/04/12 15:49
石徹白未亜(ライター)

 日曜昼のドキュメント『ザ・ノンフィクション』(フジテレビ系)。4月11日は「放送1000回SP 前編」というテーマで放送された。

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あらすじ

 今回が放送999回目になる『ザ・ノンフィクション』。当番組の初回は1995年10月15日。登場したのは、同年にロサンゼルス・ドジャーズに入団した野茂英雄投手で、番組テーマソングはおなじみの「サンサーラ」ではなかった。放送2回目は同年3月に地下鉄サリン事件を起こしたオウム真理教をテーマにし、番組史上唯一となる、朝の情報番組のようなスタジオ形式が採用されていた。

 初期はこのような「大事件の関係者」「芸能、スポーツの有名人」などを取り上げたものが多かったが、徐々に番組は市井の人たちにスポットライトを当てていく。なお、『ザ・ノンフィクション』は被写体との距離の近さが特徴だが、これは、撮影用の高画質のビデオカメラが家庭用とほぼ遜色ないほど小型化したことも影響しているという。

 山一證券が自主廃業した97年に放送された「借金地獄物語」は借金を返済するためにファッションヘルスで働く女性や、事業に失敗し家を手放す高齢女性と競売屋のやりとりを伝え、日曜午後としては驚異的な視聴率15.9%を記録。


 番組は隅田川の川べりで共同生活をする50代のホームレスの男女、段ボールを拾い集めて生活する人、道に落ちているお金を拾う「地見屋」といった、「持たざる」人たちの暮らしのほか、北新地のホスト、ヤマンバギャル、ダウン症の子どもたちのダンス教室、BSE騒動で米国産の牛肉の輸入が禁じられ、牛肉の争奪戦となった中での大阪・鶴橋の人気焼き肉店の様子や、昔ながらの応援団に入った中学生が成長していく姿など、さまざまな境遇にある人たちの姿を映していた。なお、番組で最多放送シリーズは過去15回放送された「上京物語」になる。

子どもだけでなく、大人が年を取る姿も心を揺さぶる

 『ザ・ノンフィクション』の魅力の一つは、長い期間にわたって、一人の人を見つめていくところだろう。「花の中学生応援団」では、当時中学校では唯一の応援団といわれていた、明治大学付属明治高等学校・中学校に入団した中学1年生の生徒が高校3年生になるまでの6年間を追っていた。中学1年生の頃は、ぶかぶかの学ランに着られているようなか細い子どもが、高校3年ではすっかりたくましい青年になっていた。

 子どもが大人に成長していく姿はそれだけでまばゆいものだが、一方で、「年齢を重ねていく姿」は大人であっても心を揺さぶられるものがあると思ったのが「おっぱいと東京タワー」だ。

 こちらは、『ザ・ノンフィクション』の信友直子ディレクターが乳がんになった自分の姿を撮ったものだが、そこには直子を看病するため広島・呉から上京し、穏やかに励ます直子の母親、文子の姿が映っている。

 当時文子は70代くらいに見える。抗がん剤で髪の毛が抜ける娘の背中にコロコロをかけ、家事をし、病院に付き添う姿は心強いが、その後文子は85歳で認知症を発症し、洗っていない洗濯物の上で寝転んだりするようになる。一方でそんな自分へのふがいなさ、悲しさもあるようで、文子が葛藤する様子も『ザ・ノンフィクション』で放送されている。


 その後、文子は2020年に亡くなっている。文子が年齢を重ね、生きる姿は胸に迫るものがあった。

ぼけますから、よろしくお願いします。