[官能小説レビュー]

コロナ禍で仕事を奪われても、たくましく生きる風俗嬢たちを描く『アンダーグラウンド・ガールズ』

2021/04/05 21:00
いしいのりえ
『アンダーグラウンド・ガールズ』(草凪優・著/実業之日本社文庫)

 昨年から続くコロナ禍の一年で、私たちは生命力を問われた。生きていく上で潤いにはなるが、決して「必要」ではないエンタテインメントは徹底的に排除され、必要最低限の衣食住だけを守り、1日を生き延びてきた。

 これまでの生き方が通用しなくなった今、試されるのは個々の「強さ」だ。男も女も平等に、これから先は心身ともに個体が強くなければ生き残れないだろう。

 今回ご紹介する『アンダーグランド・ガールズ』(草凪優・著/実業之日本社文庫)は、コロナ禍で仕事を奪われた女が主人公である。

 舞台は東京・吉原。120分10万円の高級ソープ「ヴィオラ」で働くナンバーワンソープ嬢の波留は、真綿で首を絞められるような新型コロナウイルスの影響に怯えていた。周辺店舗は次々と自主休業に入るなか、客足が遠のいてしまった「ヴィオラ」は、店長の自死により閉店を余儀なくされる。

 波留は決して男性経験が豊富だったわけではない。学生時代に教師と駆け落ちをし、流れ着いた東京で、年齢を偽り夜の街で働き始め、教師の家族の養育費を仕送りするために、今でも風俗業界から抜け出せずにいる。


 コロナ禍で路頭に迷ったのは波留だけではない。常に人気ランキング上位に入るアラサーの檸檬、知的な雰囲気を持つ翡翠、そして、常に波留をライバル視していたナンバーツーの水樹。そして愛嬌だけが売りの桃香の5人の「ヴィオラ」元キャストが手を組み、デリヘル店「ヴィオラガールズ」をひっそりとオープンした。

 滑り出しこそ順調であった「ヴィオラガールズ」だが、ひょんなことから波留は高蝶という悪い男の手腕にはまり、監禁されてしまう。仲間たち5人は何とか波留を救おうと、高蝶が営む裏カジノへ乗り込むのだがーー。

 『アンダーグランド・ガールズ』は、非常にシンプルで爽快な官能小説である。コロナ禍の中で疲れ果て、心身ともにふやけきった脳内に喝を入れてくれる「ヴィオラガールズ」の、強く美しい戦士たちの物語。

 エロく、楽しく、たくましい。

 本作は、先行きの目処が立たず、不安しか見えずに弱りきった身体に鞭を打ち、奮い立たせる一冊である。
(いしいのりえ)


最終更新:2021/04/05 21:00
文庫 アンダーグラウンド・ガールズ