『ザ・ノンフィクション』レビュー

『ザ・ノンフィクション』医者にはなれないけど「声優」にはなれると思っている「声優になりたくて ~カナコとせろりの上京物語~」

2021/03/01 15:29
石徹白未亜(ライター)

「いつからでもスタートできる」が通じない声優業界のエイジズム

 圭那子は学校を卒業し会社に就職し、特に会社に不満はないがこのままではイヤだという気持ちが芽生え、27歳で働きつつ劇団に入り、30歳で上京する。おそらく最初は趣味程度の位置づけだった演劇が、圭那子の中で大きくなっていったのだろう。

 圭那子に限らず、「卒業して働いてみたけど、なんだかこのままじゃイヤだ」とくすぶる思いを抱える人は多いだろうし、そこで道を変える、という人も普通にいる。声優を目指していたが、諦めて勤め人に戻ると話していた圭那子の友人は、29歳と30歳の間には壁がある(30になると就職で苦労する)と話していた。

 30歳という年齢はまだ、覚悟があればいろいろなことを新たに始められる「若者」だと思う。しかし、それはやはり都市部に限ったことであり、また声優という仕事においては、30歳は若者の部類には入れないのだろうと、声優業界に疎い私ですら察する。

 30歳前後の声優を調べてみると、若手というより実績を積んだ中堅の顔ぶれが並んでいて、特に女性声優はその傾向が強い。子役出身の声優も多く、キャリア=ほぼ人生という人すらいる。30歳という年齢は、声優を目指すならかなりシビアな年齢だ。

 声優になるには、「普通に高校、普通に大学、普通にお勤め、そこから」という歩み方では遅いのだろう。残酷な業界だ。逆に言えば、「エイジズム」という言葉が出てきだした今ですら、いまだそれが極めて強い業界で、それでも「声優を職業にする覚悟はあるのか」ということなのだろう。せろ里と圭那子の今後もぜひ見たいと思った。


 次週のザ・ノンフィクションは『わ・す・れ・な・い あの日10歳だった僕は…前編(仮)』。2011年3月11日の東日本大震災で、全校児童の約7割、74人の幼い命が津波で犠牲になった大川小学校。家族や仲間の多くを失いながら生き残った哲也を「奇跡の子」としてメディアは取り上げるが……。

石徹白未亜(ライター)

石徹白未亜(ライター)

専門分野はネット依存、同人文化(二次創作)。ネット依存を防ぐための啓発講演も行う。著書に『節ネット、はじめました。』(CCCメディアハウス)など。

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いとしろ堂

最終更新:2021/03/01 19:43
声優という生き方
落合福嗣くんて立派なんだと思わされたよ