『おちょやん』解説

朝ドラ『おちょやん』、ヒロイン実父・テルヲをめぐり炎上連発! トータス松本の“毒父”ぶりは「絶対悪」か「庶民の普通」か?

2021/02/27 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

子どもが生まれたら、幼い頃から働かせるのは庶民の普通!?

 千代のモデルである、浪花千栄子さんの悲惨な自伝『水のように』(朝日新聞出版社)でも、父親はどこに出しても恥ずかしいダメ人間として描かれています。

 しかし、ドラマの千代とは違い、浪花さんは父親に表立って反発することはしていません。浪花さんの父親への思いを端的に記した一言が『水のように』にはあって、それは「昔の謹厳実直な父親に帰ってほしい」という言葉なのでした。

 あからさまに女好きでだらしないテルヲとはちがって、浪花さんの父親は救いようのない貧しい生活ゆえに、ある時期から、“狂ってしまった”といってもよいのです。だからこそ浪花さんはより苦しんだだろうし、つらかったと思うんですけれどね。

 『水のように』の記述とその行間から読むと、浪花さんの父親がおかしくなったのは、妻(浪花さんにとっては生母)を失ってからのようです。大半の日本人にとって結婚が「個人」の問題になったのは、実はごく最近のこと。『おちょやん』の舞台である20世紀初頭では「家のために」、もっというと、「自分の生活を立ち行かせるために」結婚するのが庶民の普通なのです。

 そういう結婚は愛情の結果ではないので、年齢やステイタスなど、条件面のすり合わせだけでほぼ、決まります。大事なのは、結婚して同じ家に住んで家賃や生活費を折半できること。そして、子どもが生まれたら、幼い頃から働かせ、自分たちの生活を少しでもラクにすることなんですね。


水のように