【連載】堀江宏樹に聞く! 日本の“アウト”皇室史!!

皇后の縁戚が「不敬罪」で逮捕!? 天皇家を揺るがした“新興宗教”スキャンダル【日本のアウト皇室史】

2021/02/06 17:00
堀江宏樹(作家・歴史エッセイスト)

宮中はスピリチュアルの素地がある

――どえらいことを口走っていますが、何が目的なのでしょうか?

堀江 貞明皇太后に対する批判でしょうね。謎の脳病で若くして崩御なさった大正天皇の皇后だったのが、貞明皇太后です。早すぎた天皇の死は「神罰」であり、その責任が貞明皇太后にあると考えてしまったのでしょう。

 この手のアウトな発言を、垂れ流しつづけた結果が不敬罪による逮捕でした。ちなみに島津ハルの支持者は上流階級に多く、そのお告げは、民間にはほとんど知られていませんでした。しかし、その反面、宮中には影響が広がっていました。もともと、宮中はこの手のスピリチュアルな何かに感化されやすい素地があったのでしょうし、島津は元・女官長ですからね。

――以前、このコラム連載の中で山川三千子さんの『女官』を取り上げましたが、あの中でも貞明皇后は批判されていましたよね。山川さんも高位の女官でした。

堀江 この問題は根深いのです。また機会を改めて触れる必要がありそうですね。


 逮捕された島津ハルは涙を流しながら、「日本を救う道は昭和天皇の弟宮の高松宮様が天皇になるしかない」などと拘置所の中でもしゃべり続けていたそうです。しかし、さすがは元・教育者のインテリ女性というべきか、霊媒師・角田つねによる「お前は神の生まれ変わりだ」という洗脳が解けたのは意外に早い時期でした。

――教育者として実績を出せるくらいですから、本当はマジメで責任感が強い女性なんでしょうね。

堀江 女官長のキャリアと、愛する夫を同時に失った時、島津の心には大きな穴が空いたといえます。その穴を埋めるにはよほどの大きな“使命”が必要だった。だからこそ、「日本の危機を救えるのは、神の生まれ変わりのあなただけ」みたいに霊能者を自称する女から煽られると本気にしたのでしょうね。思えば気の毒な女性です。

 拘置所の中で、スピリチュアル関係以外の人と、取り調べという形にせよ、対話する中で島津は自分を神だとは思えなくなり、正気を取り戻しました。その結果、彼女は不起訴処分に。

 しかし、その後は精神病院に強制入院させられ、そこで半年を過ごしました。


乙女の日本史 / 堀江 宏樹