「メルカリちゃん」と呼ばれる“万引き商人”の実態! 化粧品やストッキング……計92点を盗んだオンナ
当日の現場は、関東郊外のベッドタウンに位置する大型ショッピングモールM。広大な敷地にそびえたつ二階建ての建物の中に、食品スーパーをはじめ、日用品やコスメドラッグ、衣料品、ペットなどを扱う専門店が数多く出店しているほか、フードコートやレストラン、映画館にマッサージ店などまで併設されている地域の人気スポットです。
当日の勤務は、夕方以降の被害が多いということで遅めのシフトが組まれて、午後2時からとなりました。この日が初回のため、総合事務所まで挨拶に出向くと、この店の警備隊長だという初老の男性が応対してくださり、防災センターまで案内されます。扉を開けると、室内の壁は無数のモニターで埋め尽くされており、テレビ局と見紛うほどの雰囲気に圧倒されました。
「私は、警察出身なんだけど、ずっと交通畑だったから、万引きには疎くてね。防犯カメラの解析くらいしかできないんだ。ここに不審者のファイルがあるから、目を通してもらえるかな」
警備隊長に差し出されたファイルをめくってみると、店に出入りする様子や犯行前後の様子などを写したと思われる写真を中心に、数多くの不審者がファイリングされていました。どうやら細かい方らしく、日時や場所のほか、持ち物や服装、使用した出入口、来店手段なども詳細に記録されています。
「ずいぶんと細かくまとめておられますね」
「交通鑑識していたものだから、資料作りだけは得意なんだよね」
よく見れば、どことなく俳優の六平直政さんに似ておられるスキンヘッドの警備隊長が、自慢気な様子で胸を張っています。
「先週は、この集団に洋服をたくさんやられちゃってさ。この婆さんは、毎朝かならず来る常習犯。で、このおじさんが……」
自分の仕事ぶりをアピールしたいらしく、ファイルをめくりながら解説してくださいますが、捕捉実績は皆無のようで被害自慢に聞こえてきます。いくらデータの収集が上手でも、それを使いこなせなければ、なんの意味もありません。こうしたモールの多くは、積極的に警察OBの方を採用しておられるようですが、事後のことばかりで、現行犯に弱い気がするのは気のせいでしょうか。当たり前のことではございますが、ただモニターを睨んでいるだけでは万引き犯を捕まえられるわけもなく、その被害は膨らむばかりなのです。業務開始時刻が迫っていたため、少し大袈裟に時計を気にする素振りをした私は、歯周病の臭いを漂わせながらしゃべる警備隊長の話を遮って、いそいそと現場に入りました。