私たちの「食」は、豊かなのだろうか? グルメブーム、日本食礼賛の内側をえぐる『メイド・イン・ジャパンの食文化史』
輸入穀物への依存が始まった明治時代。人口は増加し、食料自給もままならないまま戦争の時代へと突入していく。太平洋戦争後の窮乏と経済的復活、そして高度成長期へ。食生活が豊かになっていく一方で、インスタント化や欧米化が進み、日本的な伝統食はすたれはじめる。
また戦後から昭和の時代というのは、危険な食品添加物の時代でもあった。この時代があったからこそ現代の食品安全基準が形成されたともいえるが、払った犠牲は大きかった。やがて時代はバブル好景気となり、貪欲なまでに海外の食文化を輸入し、消費していく。そして、崩壊。失墜の中で広まった「粗食
」のすすめ、平成の大凶作、O157など食中毒の発生、狂牛病パニック。有名企業や飲食店の産地や製造年月日、原材料など一連の偽装発覚の連続。食の安全と信頼が揺れに揺れた90年代と2000年代を経て、今へと続く。
個々にすばらしいものを作り、育てている人はいる。高品質な食材も多いし、高度な調理技術と洗練されたもてなしのスタイルの融合を楽しめるお店もある。だが、誇らしきそれぞれのものを現在、日本人のうち何%が享受できているのだろう。日本食を礼賛する人々は、日常的にどんな食生活をおくっているだろうか。私たちは、豊かなのだろうか――痛切に考えさせられる一冊である。
著者の畑中三応子(はたなか・みおこ)氏はもともと編集者で食文化研究家、奥付のプロフィール欄に1958年生まれとある。「情報誌とグルメガイド誌が食のトレンドを引っ張ってめまぐるしく流行が入れ替わるグルメブームの真っ最中」に、編集者として働きはじめ、シェフへのインタビューを中心としたムック制作を長年やられていたようだ。
ほかにも食に関するクロニクルを数冊書かれているが、この手の本はとかく「たくさん調べました、年代順のポイントまとめました、終わり!」的な味気ないものになりがち。しかし畑中氏の場合はそうならない。事実描写の積み重ねとその客観的な歴史評価、プラス主観としての印象批評のバランスが絶妙で、読み飽きないんである。時代の変遷を食流行を軸に描いた『ファッションフード、あります。――はやりの食べ物クロニクル1970-2010』(ちくま文庫)もおすすめ。こちらは畑中氏のユーモアや、ときにシニカルな目線がより濃く表されている。