私たちの「食」は、豊かなのだろうか? グルメブーム、日本食礼賛の内側をえぐる『メイド・イン・ジャパンの食文化史』
時短、カンタン、ヘルシー、がっつり……世のレシピ本もいろいろ。今注目したい食の本を、フードライター白央篤司が毎月1冊選んで、料理を実践しつつご紹介!
今月の1冊:『メイド・イン・ジャパンの食文化史』畑中三応子 著
タイトルだけ見ると非常にカタい本のようだが、実に面白く、読みやすく書かれたノンフィクションなんである。コラム集を読むような軽い気持ちで手に取ってみてほしい。本書のテーマは「なぜ日本人はかくも国産をありがたがるようになったのか?」なんだけれども、著者は同時に「そもそも日本人って食を大事にしてきたのだろうか?」という視点でクロニクルを編んでいる。
プロローグ、書き出しから「もう10年近くになるだろうか、日本食礼賛が巷にあふれてきたのが気になりだした」とくる。日本の文化、歴史、技術はすごいもの、と喧伝するテレビ番組や書籍が定番コンテンツとなってきた頃だろう。そんな風潮に拍車をかけたものとして、著者は2013年の和食のユネスコ無形文化遺産登録をあげる。その理由が以下の4点。
・多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
・栄養バランスに優れた健康的な食生活
・自然の美しさや季節のうつろいの表現
・年中行事との密接なかかわり
理由を読まれてみて、どうだろう。著者の「私たちが捨て去ってきたものばかり」という書きように、大きく頷いてしまった。どれも絵に描いた餅というか、「そうあれたらいいよね」「本来はそうなんだろうね」と多くの人が感じるのではないだろうか。たしかに、高級和食店で出てくる料理は先の4点を大事にしているだろう。しかし平均的な日本人の普段の食卓は、残念ながらほど遠い。いや、だからこそ「遺産」なのか……などと、私もユネスコが発表した当時に思っていた。
とかく日本人は「私たちの食文化はすごい」と言い切りすぎじゃないだろうか。「じゃあ、どうすごいの?」と訊かれて説明できる人はどのくらいいるだろう。「日本には四季があって、折々の食材が豊かで」四季のある国は世界中くらでもある。確たる根拠や生活実感もなしに、日本食礼賛ムードが進みすぎてしまっているのはどういうことなのか――そこを畑中氏は歴史から探っていく。