サイゾーウーマンカルチャーブックレビュー韓国社会の不条理に立ち向かう女性の生き方 カルチャー [サイジョの本棚] 韓国のベストセラー作家による注目の新刊! 現代社会の不条理と闘う女性たちの「強さ」に励まされる短編小説集『彼女の名前は』 2020/11/03 17:00 保田夏子 ブックレビューサイジョの本棚 近代文学の有名人のゴシップ集『文豪春秋』 アニメ化もされた人気漫画『文豪ストレイドッグス』(原作:朝霧カフカ、作画:春河35/KADOKAWA刊)やゲーム『文豪とアルケミスト』(DMM GAMES)など、文学史に残る作家に着想したコンテンツが幾つか出てきたことで、近年、SNS上では教科書でしかなかなか知られてこなかったような作家の存在感が増している。そんな人気作に登場するキャラクターに負けない、日本近代文学を担った文豪たちの濃い魅力あふれるエピソードを、ユーモアを添えて存分に見せてくれるコミックが『文豪春秋』(著:ドリヤス工場/文藝春秋刊)だ。 水木しげる氏リスペクトの画風で知られるドリヤス工場氏によって、“乙女ゲームや2.5次元舞台にハマっている文藝春秋社の若手社員が、社内にふらりと出現する菊池寛の昔語りを聞く”スタイルで描かれる本作。文藝春秋社を創業した菊池寛は、人気作家であり、編集者としても「芥川賞」「直木賞」を創設した文壇の中心人物の1人だ。「菊池視線」という体で、太宰治、芥川龍之介、中原中也、中島敦、与謝野晶子、樋口一葉、吉屋信子ら、そうそうたる面々の、良い面も悪い面も含めた人間らしい人となりを示すエピソードがイメージ豊かに紡がれる。 今でこそ「近代文学」といえば重々しく、真面目な学問としてのイメージも強いが、明治から昭和初期にかけては「小説」という表現ジャンル自体が若く、発展途上で勢いのあった時代だ。本作を通して、その担い手である作家たちも、最先端の芸術・エンターテインメントの送り手として、強い存在感を見せていたことが伝わってくる。 妻を佐藤春夫に“譲った”谷崎潤一郎、薬物中毒に苦しんだ坂口安吾、「借金の天才」と呼ばれ、借りた金を遊興につぎ込んでいた石川啄木、なまものや埃を過剰に恐れた泉鏡花、長年夫と愛人と同居し続けた岡本かの子、虚飾と嫉妬心に苛まれた林芙美子――。比較的有名なエピソードも多いが、谷崎潤一郎の小説にも登場するある男性と、アニメ『魔法少女まどか☆マギカ』などで知られる脚本家・虚淵玄との関わり、生前ほぼ無名だった中島敦が、なぜ死後に教科書に載るほどメジャーな存在となったかなど、あまり言及されていない秘話も収められている。また、永井荷風が、著作で菊池や文藝春秋社を罵倒したエピソードを取り上げつつ、「まるで文藝春秋がゴシップ雑誌の出版社であるかのような扱いだ」と菊池に憤らせるなど、メタ的な皮肉が効いた小ネタも散りばめられており、幅広い層が楽しめる1冊となっている。 取り上げられる文豪たちのエピソードは、清廉潔白な人格ばかりとは限らない。ひどく軽率な行動を繰り返したり、取り返しのつかない過ちを犯したりもする。そんな人々から、多くの人の心に豊かな彩りを加える名作が生み出されてきたのも事実だ。何を間違い、どう失敗したかということより、何を生み出し育てたかが、良くも悪くも後世に残っていくものかもしれない。綻びのない人生が良しとされる規律正しい現代ではあるが、過ちや矛盾を抱えつつパワフルに生きた作家たちの姿に、おおらかなパワーを得られる1冊でもある。 (保田夏子) 前のページ12 最終更新:2020/11/03 17:00 楽天 文豪春秋 型破りな人ばかり 関連記事 「偉人」と呼ばれる女性たちの“人間臭い”裏の顔を暴く! 『スゴ母列伝』『目の見えない私がヘレン・ケラーにつづる怒りと愛をこめた一方的な手紙』【サイゾーウーマンの本棚】「普通のおばちゃん」が“やりたい”を貫く7年半――『お遍路ズッコケ一人旅』で描かれた40代女性の情熱本国で13万部の大ヒット! 注目の韓国文学『わたしに無害なひと』が、“私たち”に響くワケ少年アヤ、最新エッセイ『ぼくの宝ばこ』レビュー:“可愛いもの”を愛した「ぼく」がつづる、“なじめなさ”の記憶『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』レビュー:最も一緒にいる「他人」だからこそ、関係性のメンテナンスを 次の記事 SEVENTEEN「HOME;RUN」とJazz >