サイゾーウーマンカルチャーブックレビュー『すべての夫婦には問題があり〜』レビュー カルチャー [サイジョの本棚] 『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』レビュー:最も一緒にいる「他人」だからこそ、関係性のメンテナンスを 2020/05/17 13:00 保田夏子 ブックレビューサイジョの本棚 『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(扶桑社) ――本屋にあまた並ぶ新刊の中から、サイゾーウーマン読者の本棚に入れたい書籍・コミックを紹介します。 『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』(犬山紙子、扶桑社) 【概要】 『負け美女』(マガジンハウス)や『言ってはいけないクソバイス』(ポプラ社)などの著書で知られ、現在は情報番組のコメンテーターとしても活躍するエッセイスト・犬山紙子が、3年にわたって多数の夫婦を取材した「週刊SPA!」(扶桑社)の連載「他人円満」を書籍化。自分と夫の過去も振り返りながら、元は他人同士だった夫婦がそれぞれの問題を乗り越え、円満に暮らすためのヒントを探す。 ************** 新型コロナウイルス感染防止のために外出自粛となり、自宅で配偶者と向き合う時間が増えたことで、良い意味でも悪い意味でも「こんな人だったんだ」と新たな面に触れた人は多いだろう。生涯のパートナーと決めた相手でも、もしくは長年の恋人や友人でも、時間がたつにつれ、当初の関係性とはズレが生じてくる。そこに戸惑いや引っ掛かりを感じる人におすすめしたい本が、『すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある』だ。 夫婦間に起きがちな問題――「ケンカ」「不倫・浮気」「家事の分担」「育児」「不妊治療・セックスレス」「パートナーの精神疾患」――ごとに、トラブルを乗り越えた夫婦に取材し、関係修復のヒントを探っていく本作。夫が家事をするようになった夫婦、妻の「察して」や夫の「キレ癖」がなくなった夫婦、不倫を経てより関係を深くした夫婦など、具体例は夫婦に限定されるが、本作に通底する「関係性というのは生き物なのでメンテナンスをしないといつか死ぬ」という価値観は普遍的で、さまざまな人間関係に応用できるものだ。 本作には、事実婚を選択している夫婦、複数の生活拠点を持ち、妻と息子だけシェアハウス生活を送る夫婦など、トラディショナルな「夫婦」とは異なるスタンスで生きる人々にも取材している。そういう意味では、誰にでも適用できるマニュアル書ではない。しかし、多様な事例を知ることによっておのずと思考・選択の幅が広がり、問題を乗り越えた夫婦関係に、いくつかの共通点が浮かび上がってくる。 不満やズレははっきり言葉で伝えること、相手の言葉も受け止め、「ケンカが成立する関係」を構築・維持すること、ケンカをいわゆる「論破」で終わらせず、有益なコミュニケーションにするために知識を得続け、価値観は更新され続けるべきものだと認識すること。要点だけ抜き出すと「わかってるよ!」と言いたくもなるかもしれないが、もし「わかってるけどできない」とすれば、そこには理由があり、読者自身が自らその原因を解きほぐすためのトライしやすい一言、小さな行動のヒントが多数詰められている。 そして、多様な夫婦の事例に加えて、犬山氏と夫・劔樹人氏の夫婦の間に生じた危機もさらけ出して語っているからこそ、「結婚は人生の墓場にもなり得るし、聖域にもなる」「円満の秘訣は妥協ではない」という言葉は説得力を持つ。 本作のタイトルにも込められている通り「もめることはしょうがないし、問題だって起こる」という前提に立ち、取材する著者の視点が、常にフラットで優しい。自分も相手も、強くて優しい人格者であればいいが、そうではない。1つや2つでは済まない欠点を抱えて、時には心身が弱り、間違うこともある。本書はそんな人間の弱さや過ちを糾弾するのではなく、弱い人間同士が夫婦として寄り合うことで強くなれる場合もある、そんな希望を見せてくれる。完璧ではない私たちが、完璧でないまま、関係をより成熟したものにメンテナンスするための手引書になっているのだ(※一方で、本作は離婚したほうがいいケース、離れるべき人を見極める基準についても触れている)。 時間とともに、あらゆる物事は変わっていく。靴やバッグを長持ちさせたいなら、コストを掛けてでも修理が欠かせないように、関係性にもメンテナンスが必要だ。面倒なら、容易に取り換えられるものを複数持ってもいいし、あえて何も持たない、という選択肢もある。人生においてはどんな選択も自由で、死ぬ時に本人が満足できたなら、まっとうな道・あるべき道というものはない。ただ、個人的には、自分一人では持ちきれない苦楽を分かち合える人がいれば幸せだし、愛する人にとって自分がそうなれたとすればうれしい。そんなふうに考える人に、本作はパートナーと幸福な関係を築くための「気づき」にあふれているはずだ。 (保田夏子) 最終更新:2020/05/17 13:00 楽天 Yahoo セブンネット すべての夫婦には問題があり、すべての問題には解決策がある “完璧”なんて幻想なのよ 関連記事 『わたしの外国語漂流記』レビュー:読み物としてもおもしろく、外国語習得のヒントも得られる1冊『いつもひとりだった、京都での日々』『わたしの好きな街』レビュー:新生活=有意義な日々、じゃなくていい『氷室冴子とその時代』レビュー:誰より少女の自立を願っていたのに、少女小説家の“レッテル”に悩んだ作家の苦悩『しらふで生きる』レビュー:酒、趣味、人間関係に無意識で依存している人に響く「解脱」までの日々『子育てとばして介護かよ』『親の介護をしないとダメですか?』:同居も無理もしない介護のリアルを描く 次の記事 コロナ禍の行動が称賛された“炎上”芸能人 >