韓国ドラマ『愛の不時着』、30代女性が「リ・ジョンヒョクになりたい!」ワケ――周囲に大笑いされた“欲望”とは?
ところで「王子様」とは何か。「私を選び、幸せにしてくれる男性」というイメージが一般的だろう。しかし、私たちが王子様にどうしたって憧れてしまうのは、そんな表面的な理由からではないだろう。王子様とは、ありのままの自分を愛し、守ってくれる他者の象徴とみることだってできる。
おとぎ話は、しばしば世界の本質を突いている。この世は、例えば『シンデレラ』のように、ただ善く生きたいだけなのに虐げられることがある。あらぬ方向から憎しみを受けて、気が付いたら茨の城に仮死状態で閉じ込められる『眠れる森の美女』的な状況に追い込まれることもある。こうした理不尽な苦しみに、一人で抗うことは難しい。でも、損得勘定なしに「この私」を全力で肯定し、解放してくれる誰かが傍らにいてくれたら、立ち向かうことができる。自分一人ではどうにもならない状況に囚われた者を解放するのが「王子様」なら、私たちが「白馬の王子様」を待たない理由なんてない。それに、女が「王子様」になることだって、男が「お姫様」になることだって、あっていい。
リ・ジョンヒョクは、その意味での「王子様」なのだ。象徴的な場面がある。
ユン・セリは、社会的地位や事業の成功には恵まれているが、親やきょうだいとの関係は崩壊している。あるがままの自分を受け入れてもらえる居場所を持たない序盤の彼女は、孤独な城の中に自らを幽閉したお姫様のようにも私には映る。
そんな彼女は、北朝鮮での不自由極まりないはずの生活の中で、「生きることが楽しいという感覚」を取り戻す。リ・ジョンヒョクや、彼に忠実で心優しい隊員たちと出会い、食卓を共にし、あわやというピンチも、皆で知恵や力を出し合うことで何度でも乗り越えた。不自由なはずの環境で、精神的には自由を得たのだ。
だが、38度線に隔てられている彼らにはやがて別れが訪れることが決まっている。また元の生活に戻るユン・セリに向かって、リ・ジョンヒョクは、こんな言葉をかける。
「孤独にはなるな」「そばにいなくても、君が寂しくないように――いつも思ってる」
日々を豊かに過ごすうちに「僕のことは忘れても構わない」とまで言い切る。これは、彼女を所有しようとするのではない、ただ“孤立の檻”から解き放ってやりたいという願いを言葉にした、彼の真骨頂だと私は思った。