『愛の不時着』北朝鮮ウォッチャーの心に響いた5大シーン! リ・ジョンヒョク(ヒョンビン)のキスシーンを“北から目線”で考察
韓国に帰国したセリが、自身の天敵である少佐チョ・チョルガン(オ・マンソク)に狙われていることを知ったジョンヒョクは、韓国に密入国。そんなジョンヒョクを連れ戻すため、彼の信頼する中隊員たちと“耳野郎”こと監視盗聴室の軍人チョン・マンボク(キム・ヨンミン)は、韓国へ渡る。
李 奥様たちの友情と同じく、中隊員たちの仲間意識にグッときました。初めて訪れた韓国で、ジョンヒョクを探す中、曹長のピョ・チス(ヤン・ギョンウォン)が兄貴ぶり、末っ子の初級兵士クム・ウンドン(タン・ジュンサン)に優しく接するシーンが特に良かったです。無事にジョンヒョクとセリに会えたとき、あの意地っ張りなピョ・チスが安堵したような表情を見せ、セリとハグするシーンも忘れられません。
実際問題、北朝鮮の人が韓国に渡るというのは、大きな危険を伴います。中隊員たちは軍の任務として韓国へ行っているので、北朝鮮側から処分を受けることはないかもしれませんが、韓国側からは完全にスパイとみなされます。1960年代には、北朝鮮が韓国の人を拉致する事件もあったので、韓国側はものすごく警戒しているんですね。またドラマ終盤で、中隊員たちは大韓民国国家情報院に捕まりますが、この前身組織である韓国中央情報部(KCIA)は、拷問などかなり悪どいことをやっていました。そうした国家事情を考えると、中隊員たちは韓国で、極度の緊張状態の中、互いを支え合っていたのだと思うんです。ちなみに、ドラマでは国情院の職員たちが皆さんとても優しいんですが、「あのKCIAの後継組織の職員があんなに優しいかな?」「韓国を良く見せるための演出では!?」と疑問を抱きました。
38度線を越えることについては、もう一点。セリは、パラグライダーで嵐に巻き込まれ、うっかり38度線を越えてしまいますが、あれはその場で射殺されても誰も文句は言えない状況なんです。過去に韓国の人が、38度線に近い海岸で海水浴をしていた際、つい38度線付近の立ち入り禁止区域に入ってしまい、警告を受けてもそのまま泳ぎ続けた結果、北朝鮮側に射殺された事件が起こり、南北関係がこじれてしまったことがあります。そう考えると、セリはまさに“不時着”したのだなと感じますね。見つけたのがジョンヒョクで良かったですよ、本当に!
――後編では、李氏に「もし北朝鮮の人が『愛の不時着』を見たら……」をテーマにお話をお聞きする。
李銀河(り・うな)
北朝鮮音楽研究家。平壌にある金元均名称音楽大学・専門部を通信受講生として修了。民間企業に勤務する傍ら、北朝鮮に関するイベ ントに出演、音楽や文化を通じて北朝鮮の政治情勢や人々の暮らしを紹介している。いまの関心事は北朝鮮のエネルギー問題。趣味はサイクリングと旅行と中国茶。